「じゃあ、和也も自分が行きたい道には進めなかった訳だ」
「まぁ、そういうことだな。小学生の時に書いた文集に『将来の夢』ってのを書かされるだろ? それにも将来の夢は『医者』って書いたんだけどさ……もう、その夢はたたれたって訳さ」
「そっか……。って、和也って……意外に自分の人生を歩んでなかったんだな」
「そう言われてみればそうかもしれないな。夢は絶たれて、望に告白しても玉砕されて……ホント、あんまいい人生なんじゃねぇのかもな」
軽く笑ってみせる和也だったが、目は和也にしては珍しく切なそうにしていた。
「その点、望はいいよなぁ、自分の人生を歩んでいるっていうか……思い通りの人生を歩んでるって感じがするしよ」
「そうなのかなぁ? それはよく分からねぇけどさ。でも、今が幸せならいいんじゃねぇの? お前だって、今は幸せなんだろ?」
「ま、そうだけどさぁ。今はいいんだけど……やっぱ、親の言う通り、未来のことも考えなきゃならねぇのかなぁ? って思う時もあるけどな。今は確かにまだまだ遊んでいられる年頃だけどさ……やっぱ、奥さん作って、子供が生まれて、幸せな家庭を作ってあげた方がお袋が喜ぶんじゃないかなぁ? ってことも考えることもあるしな」
「それを言ったら、俺もそうしないといけないのかなぁ? って思うな。今はまだいいけど……ほら、この病院は親父の病院だろ? だから、俺が長男なんだから、子供を産んで、跡継ぎを作らなきゃなんねぇのかな? とも思うしな……」
「でも、お前は親父さんからは何も言われてないじゃねぇか。寧ろ、雄介とお前の関係は公認だろ?」
「確かに、親父には公認されてるみたいだけど、和也と一緒でお袋の意見は聞いたことがないんだけどな」
「そっか……。でも、親父さんが雄介と望の関係を大丈夫だってことはお袋さんも大丈夫なんじゃねぇのか? だって、親父さんの意見一つでお前達に家一軒プレゼントする訳がねぇだろ?」
「んー、まぁ、そうなんだろうけどな。やっぱ、親になってみないと、親の想いなんか分からないもんなんだな」
「確かに、そうだけどよ」