「それに、今は手が使えないんだよ……どうやって、雄介さん達にメール打つんだ?」
朔望は望の横に座ると、耳傍で言う。
「……へ?」
朔望の言葉に望は目を丸くし、朔望と視線を合わせるのだ。
「そんな顔をするってことは、今、僕達は手を使えないのを忘れてたでしょ?」
「あのなぁ、だったら、携帯があるとか言うなよな。こんなんじゃ、携帯あったって、意味がないだろうがよー」
朔望の言葉に望は溜め息を吐くのだ。
歩夢といい、朔望といい、望からしてみたら親父並みにイライラする存在ということなのであろう。
望は再び溜め息を吐くと、窓の外へと視線を向ける。
外は先程より人が増えたような気がするのは気のせいであろうか。時間が経つにつれマスコミや警察官達が増えている。
最も、今のこの時代に銀行強盗をする連中が居たとは思えないのかもしれない。
一昔前なら、銀行強盗の類は沢山あったのだが、今は銀行強盗くらいなら直ぐに警察に捕まるのが分かっている為か、銀行強盗をやる奴らは減ったような気がする。
だが今回は珍しく銀行強盗があった為かマスコミもここぞとばかりに集まり報道しているようだが、あの人混みの中に雄介達がいないところを見ると、今、望達が巻き込まれていることに気付いていないのかもしれない。いや、もしかしたら望から見える範囲にはいないだけなのかもしれないということだ。
望は今度、犯人達の方へと視線を向けると、犯人達はカウンターに座り何やら話をしている。
「思ったより警察が来るのが早かったな……」
「ですよねー。でも、大丈夫ですよ! 警察が来ることは想定内でしたから」
と犯人達は会話していた。
「その後は……」
一人の男性が今度、主犯格だと思われる男性に耳傍で計画を話しているようだ。きっと、ここに居る人達に聞かれてはならないことを言っているのであろう。
そんな会話を聞いていると、まだしばらくは開放してくれないのかもしれない。望は色々な意味で再び溜め息を吐く。
携帯は犯人達に取られてしまっている。
こんな時、頭に浮かんで来るのは自分の中で大事な人だ。
きっと望は雄介のことを考えているのであろう。
あまり周りの人と話を出来ないこの状況。話をすれば犯人達に気付かれ目を付けられてしまう。犯人に自分という存在を知られてしまったら命の保証はないという状態だ。