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第8話 濃すぎる初日

☆☆☆

その日は結局、1ページの半分も書き終わらないうちに、最終下校時刻を迎えてしまった。先輩達2人は、何やら清々しい顔で10枚以上の原稿用紙をトントンと揃えていた。


想像力が豊かで凄いと素直に思う一方で、書いていた内容を知ってしまった手前、素直に凄いと言えなくなっていた。


ていうかなんで、2人とも学園後輩モノなんだよ。小説のジャンルって幅広いし、人によって感性は違うだろうに。そんなかぶるもんかね。


「ふぅ、このペースなら余裕で間に合う。」


「僕も。渉くんは.....」


「全然ですよ。普通、お2人みたいに書けませんって。」


俺は机に突っ伏しながら言う。


「完成、楽しみにしてるから。なるはやで。」


「できたら僕にも読ませて欲しいかな。」


「へぇへぇ.....その時はお2人のも読ませてくださいよ?」


「あー.....うん、できたらね、できたら。」


「そ、そうだね、完成したらね。」


2人は濁した返事をする。まぁ正直、堂々と見せられても反応に困るので、それはそれで有難かったりするが。


部室の扉を閉めて、校舎を出る。夕焼けに照らされた道は、見たことの無いくらい綺麗に写った。


下校時刻ギリギリまで残ったことがまだなかったので、俺にとって初めて見る景色だった。あまりの綺麗さに、一瞬呼吸を忘れるほどだった。


「俺、この時間のここの風景、はじめてみたんですけど.....キレイっすね。」


「ほぼ毎日見ることになるから、すぐに見飽きるよ。」


「咲月先輩、人が感傷に浸ってるときに.....」


「ホントのことを言っただけ。」


「ほら、わかんないっすよ?当たり前の景色でも、改めてちゃんと見てみたらってことだって.....」


「ん.....」


咲月先輩は立ち止まり、ゆっくり顔を動かしながら、じっくりと景色を見ている。


「じゃあ、僕もそうしようかな。」


その隣で、実先輩も同じように、その場で止まって、景色をじっくりと見だした。その様子を、俺は後ろからじっと眺める。


なんていうか、こう見ると咲月先輩って、結構可愛いのな。黙ってれば凄くモテるんじゃないか、この人。


それに、実先輩もだ。なんならこっちの方が問題だ。男なのに、可愛いと思える。美少年、という単語がビッタリ当てはまっている。


「.....確かに、キレイ。あれだね、例えるなら、いいとこで終わったアニメくらいの感動さ。」


「それ分かりにくくない?それでいうなら、間違えて借りたB級映画が予想以上に当たりだったときくらいでしょ。」


「無理に例えなくていいし、例えがどちらもおかしいです。」


やっぱダメだ、喋ると途端にボロが出る。黙ったままなら絵になるというのに、喋るとギャグ漫画になるもんだから、ため息が出る。


俺はいろいろと頭を悩ませながら、帰路に着くのだった。


信じられるか?これ、部活入って初日の出来事なんだぜ。濃すぎて風邪ひくわ。


☆☆☆

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