苦しい……魔王から受けたダメージ、更に一気に力を解放した反動で体中が痛い…。息をするのも辛いがさっきの一撃で魔王も相当なダメージを負ったはずだ―。
スカー・ブルート「認めよう。その強さを貴様の存在を―。そして、敬意をもって我が全身全霊の一撃で貴様を討つ!!魂に刻むがよい!我が名は、スカー・ブルート!五大魔王が一人 影の王 スカー・ブルートだ!!!」
周りの空気を吹き飛ばすほどの魔王の咆哮。次の一撃で勝負を決めるつもりなのだろう。俺も限界に近い…。負けてしまうかもという不安はある。この世界に来たばかりで何も知らない―。それでも、あの時言った言葉に偽りはない。
不安をかき消すために目を瞑り、深く息を吸う―。
神「…じん、宿樹 神だ―」
魔王の覚悟と敬意に応える様に俺は名乗った。魔王もそれを感じ取ったのかニヤリと笑った。
スカー・ブルート「ジンか。よき名だ―」
二つの力を合わせるだけでは魔王を倒しきれなかった。朱雀の炎、白虎の膂力、青龍の剣、三つの力で魔王を討つ!!
神は三つの力を同時に発動させる。武器は刀に変わり、朱雀の炎を纏わせる。三つの力が入り交じり、眼と髪は金色に変化する。
スカー・ブルート「我が魂を食らい その真の力を呼び覚ますがいい!!黒焰の剣ダークフレイムソード!!」
先ほど使っていた禍々しい炎を纏った剣は、魔王の魂を吸いさらに力を増している。
スカー・ブルート「行くぞ!ジン!!!」
一瞬の静寂の後に魔王が叫び、互いに地を蹴る―。
神「うおおおおおおおお!!!」
スカー・ブルート「ずあああああああああ!!」
互いに全身全霊をかけた最後の一撃―。二つの力がぶつかり合い巨大な爆風を巻き起こす。徐々に煙が晴れていき、切り違った二人の姿が見えてきた。上空から神の青龍刀の切っ先が降ってきて地面に突き刺さり灰になって消えた。
スカー・ブルート「見事だ…ジン…」
振り返り不敵な笑みを浮かべる魔王、手に持っていた剣は粉々に砕かれ、その体には先ほどより大きな斬撃の後がある。神の剣が魔王の剣を砕き、切りつけたがその衝撃に耐えきれず折れてしまったのだろう。
神「はぁ…はぁ……魔王…」
神も振り返り魔王を見返す。そして、魔王は淡く光る炎に包まれる。朱雀の炎だ―。
スカー・ブルート「これは……なるほど、浄化の炎か…」
朱雀の炎に包まれながらも魔王は何かに気づき、神の後方斜め上方向に衝撃波を飛ばし、何かを破壊する。
神「な…何を?」
スカー・ブルート「ふっ…これ以上我が失態を晒すわけにはいかんのでな…」
淡い光の炎で魔王は浄化されていく―。その光は神にある映像を映し出す。遠い昔、まだ魔王が『人間』だった頃の記憶が流れ込んでくる。活気に溢れ人々のために戦い、愛しい人と過ごした日々、そして信じた者たちに裏切られ魔の力に手を染めたこと、その喜びも悲しみも怒りもすべての感情が一気に流れ込んできた。
神「スカー…お前は…」
魔王は炎の中で消えていった。あの映像は魔王の記憶なのか?魔王は元は人間だった?魔の道に誘ったアレは一体…。…ダメだ…。戦闘のダメージと疲労で頭が回らない。意識が……。
緊張の糸が途切れ神はその場に倒れこむ。
俺の中で四神たちの話す声が聞こえる。
玄武「想像以上に魔の者は力をつけておった」
白虎「ああ、だがコイツはよくやったよ。俺らの力をここまで引き出すとはな!」
青龍「だがその分体への負担も大きかっただろう」
朱雀「ダメージも大きいようですし、安全な場所に移動して傷を癒しましょう」
玄武「そうだな。人里に転移するとしよう。―まあ、この転移も一度しか使えぬのだがな」
神の下に魔方陣が描かれ、どこかの村の道端に転移する。
人里に転移できるなら最初からしてくれ!しかも一度しかできないってどういうことだよ!あとここ外なんだけど……
薄れゆく意識の中で神はツッコミを入れたが四神に届くことはなかった。