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第3話バイト先

 佐藤さんに背中を叩かれたあと、私は母にバイトをしたいということを伝え了承をとった。次に必要なのは学校の許可であるが、幸い成績もそこまで悪くなく、生活指導に目を付けられるような学校生活を送っているわけではないためか先生の了承もあっさり得ることが出来た。


 となると問題はどこでバイトをするかである。


「どったの、あおい。そんな難しい顔して」


 声をかけてきたのは「新田かな」ちゃん。入学式の時、迷子になった私を案内してくれたことがきっかけで友達になった。


「あー、バイト先探してて」


「なになに?急にバイトって、男でもできた?」


「なんでそうなんのよ・・・あんたじゃあるまいし」


 かなちゃんは既にバイトをしていて始める時、私もやらないかと誘ってくれた。その時私は断ってしまったのである。


「夏休み!BBQ!水着!秋には他校の文化祭!そして休日には食べ歩き!何をするのにも金が必要なのよ!金が!あおい!あんたもついにそれがわかったのね!」


 拳を振り上げて私に語るその目はもう誰にも止めることのできない輝きを放っていた。


「・・・まあ、そういうことにしておいてよ」


 まさかお金が欲しい理由が「旋盤を直したいから」だということは想うまい。実は母にも先生にも伝えていない。先生には言ってもいい気がしたが母には反対されると思ったから。


「で?どこでやるの、コンビニとか?時給いいとこがいいよねぇ」


「かなちゃんはどこでやってるの?やっぱりコンビニ?」


 そう言うとかなちゃんは少し目線をそらし、ぼそっと何かを呟いた。


「え・・・?どこ?聞こえなかったんだけど」


「・・・ホームセンター」


「ホームセンター・・・。あそこの車屋さんの近くの?」


「そう・・・。ホントはねコンビニが良かったんだけど、親に相談したら親戚がやっているからそのお手伝いならいいよって。他の場所じゃ許してくれなかった」


「そっかぁ・・・時給が低いとかあるの?」


「ううん。自給だけで見れば多分ここら辺じゃ一番高いかも」


「高い・・・」


 その言葉に魅力を感じてしまったのだけれど、かなちゃんはどうしてコンビニが良かったのだろうか。さっきも言っていたけど、色んなことをしたい感じならお金を稼げる場所がいいんじゃないのかと私は思ったのだけれど。


「出会いが無いのよ!」


「出会い?」


 かなちゃんは身を乗り出してきた。


「そう、出会い!コンビニとかそういうとこだと若者が集うでしょ?そこで出会って発展して恋に落ちて付き合うの!」


「若者って・・・・かなちゃんもその若者じゃん」


「それはそうだけど・・・」


 知らない人よりも知っている人が居たほうが母も安心するだろうという建前もあったけれど、何より私もお金が欲しいということもあったのでかなちゃんにお願いすることに決めた。


「そのホームセンターってさ、今も募集してないのかな」


「・・・あー、してると思う。先月、家庭の事情か何かで急に1人辞めたから。店長が人欲しがってたよ」


「じゃあ、受けようかな・・・どんなことするの?」


 そう言うと少しだけかなちゃんは嬉しそうな顔をした。


「んーまあ、基本的には商品の品出しとかそういうの。接客はあんまりないねぇ・・・覚えるのが大変かも」


「何を覚えるの?」


「商品の名前。ほら、スーパーとかコンビニなら何となく商品名でわかるじゃん。食器用洗剤とかコーンフレークとか。でもお客さんにドリルビットどこですか?って聞かれてもピンとこないもん」


「まあ・・・確かに」


 でも、なんだかおもしろそうにも感じたので私はやることに決めた。


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