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第10話 手がかかるほど可愛いもん

一人きりでシャワーを浴びていると、何故か泣いてしまった。でも、泣いているなんて思いたくなくて、これはシャワーの水滴だって自己催眠するように言い聞かせてた。俺、この暮らしがかなりストレスだ……。誰でもいいから繋がりたい。早く身も心も満たして欲しい。


「イル、髪の毛乾かすよ。ここに座って?」


そのちっちゃい身体で、洗面所までわざわざ椅子を運んできて、ご苦労なことだ。


「いいよ、そんなの自分で……」


「ううん、僕がやりたいの」


こいつは俺に惚れてるような優しさをくれるけれど、俺がこいつを抱こうとするとそれは拒否するんだから、俺のこと好きなのかどうかわかんなくなる。


「イルの髪、きらきら輝いてるね!」


彼はドライヤー片手に、俺の髪を撫でて、嬉しそうにそう言う。


「染めてるだけだよ。元々は黒髪だし……」


「へぇ、黒髪のイルも見てみたいな」


彼は興味ありげに鏡越しに俺の顔を見つめる。


「……嫌だ」


「どうして?」


「弱い自分に、戻る気がするから」


変わりたくて仕方がなくて、髪色を変えて、ピアスを開けて、名前を捨てて、弱い自分を殺したのを、覚えている。けどまだ、弱いままじゃん。


「大丈夫。イルは十分強いよ」


彼はドライヤーの電源を一旦切って、俺に乗っかかるように後ろからハグして、そう伝えてきた。


「ふっ、どこがだよ」


冗談言うなよ、と俺は笑ってしまった。けど、彼の目は真剣そのもので、


「信じて。イルの強さは僕が保証する」


と俺の頭を撫でてきた。俺はその言葉に弱くって、何だか泣きたくなってしまった。


「強い奴に言われても、ムカつくだけだっての!」


涙を見せないように笑い飛ばして誤魔化した。


「そう、」


と真面目な彼はまともに俺の言葉を真に受けて、ちょっぴり暗い表情を見せる。


「ご主人様ぁ、ありがと!」


俺はとびきりのスマイルを見せた。言い終わった後、気まずい空気が流れた。しばらくすると、彼は貼り付けたようなご機嫌になって、


「イル、可愛いね!」


と髪の毛をわしゃわしゃ撫でられた。


「俺って、良い犬じゃない?」


「僕が選んだんだから、当たり前だろ?」


って得意げに鼻を鳴らす。


「あははっ、よく言うよ!めっちゃ手焼いてるくせに」


「手がかかるほど可愛いもんなんだよ」


とドライヤーの電源を切って、俺の髪を一撫で。終わり!というように、両肩を持たれ微笑まれた。

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