彼がいなくなった部屋で、さっきまで彼と抱き合っていた部屋で、彼のあの愛らしい顔を思い出して、自慰行為をしてしまった。それなりの気持ち良さはあったけど、それ以上に彼と繋がりたかったというやりきれない気持ちのが強くて、心は満たされなかった。リビングへと向かうと、彼は普段通りのクールな顔で仕事をしていた。俺だけがまだ賢者タイムじゃないみたい。何だかそれも寂しくて、彼の視界に入り込むようにテーブルにもたれかかって座った。
「ご主人様、お仕事は順調?」
と小首を傾げて聞くと、彼は情けなく微笑んだ。
「全く」
と。
「俺が手伝ってあげよーか?」
なんて冗談っぽく言うと、彼は真面目な顔になって少し考えた後に
「お願いできるか?」
と頼んできた。俺は彼からそう言われるとはゆめゆめ思ってもなかったので、吃驚して目を丸くしてしまった。
「はい、ご主人様!」
意欲的な返事をして、彼と同じ資料を見始めた。彼が見ていたのは、妻を殺した後、冷蔵庫に三ヶ月もの間、遺体を隠していた夫の事件だった。既にその夫、つまり犯人は死体遺棄罪で逮捕されているのだが、もっと罪が重い殺人罪へするための証拠が欲しいと言う。
「妻を刺殺した時に使用した包丁が自宅の何処を探しても見つからなかったんだ」
「それで、犯人はなんて言ってんの?」
「妻は何者かに殺されて、自分は死体を隠すように命令を受けただけだって」
「その命令はどうやって受けたの?」
「置き手紙だ。これ」
とまた違う資料を見させられた。そこには「死体を隠せ。さもなくば、お前を殺す」と書かれていた。
「筆跡鑑定はしたの?」
「あぁ。だが、犯人の筆跡だと断定できなくてな」
「あはっ、その鑑定士はきっとスポンジボブだな!黄色いスポンジ、穴だらけ〜!」
なんて嘲ると、彼にムッとした表情をされた。使えない筆跡鑑定士が悪いだろ。
「これからもっと精度を高めて鑑定するんだよ」
「あっそ。はあ、もうわかんないよ!」
俺はこの事件を放棄するように資料をテーブルに投げて、珈琲でも入れようと立ち上がった。
「そうだろうな。僕達、警察がわからないんだから」
「そうじゃなくて。警察がこうも脳なしグループなのがわかんないって意味だよ」
って今度は彼を馬鹿にすると、彼は深いため息のような深呼吸をしてから、俺を真っ直ぐに見つめてきて
「じゃあ、イルは証拠が何処にあるか、わかるの?」
と聞いてきた。俺は少々決まりが悪くなって、珈琲メーカーを見つめながら、話し始めた。
「もし俺が犯人だったら、の話だけど、隣人や近しい人に凶器の包丁をプレゼントしちゃうね」
「川や海に捨てないで?」
と不思議そうな顔される。
「だってそっちのが一石二鳥じゃん!凶器を隠しながら罪を擦り付けられるし、それに、プレゼントなんてしたら喜ばれるだろ?」
俺は当たり前を言うように話した。
「ふふっ、サイコパスだな!」
彼は俺のことを褒めるように嘲笑った。