翌朝、慎一郎は家族の制止を振り切って一人で散策に出かけた
彼にとって、昨夜の老人の警告は単なる田舎の迷信に過ぎず
むしろそれを打ち破ることで自分の優越性を証明したかった
山道は思ったより急峻で、都市部での生活に慣れた慎一郎には厳しいものだった
しかし、政治家の息子としてのプライドが、引き返すことを許さなかった
約一時間の登山の末、ついに源蔵が語った『祠』を発見した
それは想像していたよりもはるかに古く・・・
苔に覆われた石造りの小さな建造物だった
正面には古い文字で何かが刻まれているが
風化が激しく読み取ることはできない
『祠』の前には、しめ縄が張られており
確かに何かを封印しているような雰囲気があった
しかし、慎一郎にとって、それは単なる古い迷信の産物でしかなかった
「こんなもので呪いだって？ばかばかしい」
慎一郎は近くに落ちていた拳大の石を拾い上げた
そして躊躇することなく、『祠』の側面を激しく打ち付けた
一撃、二撃、三撃・・・
古い石材が削れ、破片が地面に散らばった
しかし、石を振り下ろした瞬間、異変が起きた
今まで鳴いていた鳥たちが一斉に静まり返った
風も止み、山全体が死のような静寂に包まれた
そして『祠』の中から、かすかに何かがうごめく音が聞こえてきた
慎一郎は初めて恐怖を感じた
しかし、それを認めることは彼のプライドが許さなかった
「気のせいだ・・・ただの偶然だ」
そう自分に言い聞かせながら、慎一郎は急いで山を下り始めた
しかし、背後から視線を感じ続けていた
振り返っても何も見えないのに、確実に何かに見つめられている感覚があった
・・・・・
『山桜亭』に戻った慎一郎は、家族には何も報告しなかった
しかし、その表情は明らかに朝とは違っていた
顔色は青ざめ、時折空を見上げては何かを探すような仕草を見せていた
午後になっても慎一郎は部屋から出てこなかった
心配した父親の清が部屋を覗くと、慎一郎は窓際に座り、じっと山の方を見つめていた
「慎一郎、昼食は？」
「・・・いらない」
それは慎一郎らしくない返答だった
普段の彼なら、食事の時間に遅れることなど考えられなかった
夕方になっても慎一郎は姿を現さなかった
心配した家族が部屋に行くと、もぬけの殻だった
窓は開け放たれており、どうやら外に出て行ったようだった
「まさか『祠』に行ったのではないでしょうか」
雅子の声は震えていた
宿の人々総出で捜索が始まった
源蔵の表情は朝よりもさらに深刻になっており、まるで最悪の事態を予感しているかのようだった
夜が深まる中、ついに慎一郎が発見された
しかし・・・それは誰もが望まない形でだった
祠から約百メートル離れた大木の下で
慎一郎は首に縄を巻かれた状態で発見されたのだ
既に息絶えており、その顔は恐怖に歪んでいた
しかし最も不可解だったのは・・・
慎一郎が首を吊ったと思われる木の枝が
地上から三メートル以上の高さにあったことだった
足場となるような物は周囲に一切なかった
・・・・・
駐在所から駆けつけた田村巡査は、現場を見て言葉を失った
三十年の警察官生活の中でも、これほど不可解な死体は見たことがなかった
「自殺にしては不自然すぎる。しかし他殺の証拠も見当たらない・・・」
田村巡査は現場検証を続けたが、謎は深まるばかりだった
縄がどこから来たのか・・・
誰がいつ準備したのか・・・
なぜ慎一郎は抵抗した形跡がないのか・・・
すべてが不明だった
そして最も不気味だったのは、慎一郎の両手に祠の石片が握りしめられていたことだった
明らかに彼が祠を破壊したことを示す証拠だった
「やはり祠の呪いが・・・」
源蔵の呟きが、集まった人々の間に恐怖を広げた
その夜、山桜亭は異様な静寂に包まれた
政治家の息子の突然の死
そして説明のつかない状況
宿泊客たちは恐怖に震えながら、自分たちの部屋に籠もった
しかし、これは始まりに過ぎなかった・・・・
真の恐怖は、これから始まるのだった
翌朝、慎一郎は家族の制止を振り切って一人で散策に出かけた
彼にとって、昨夜の老人の警告は単なる田舎の迷信に過ぎず
むしろそれを打ち破ることで自分の優越性を証明したかった
山道は思ったより急峻で、都市部での生活に慣れた慎一郎には厳しいものだった
しかし、政治家の息子としてのプライドが、引き返すことを許さなかった
約一時間の登山の末、ついに源蔵が語った『祠』を発見した
それは想像していたよりもはるかに古く・・・
苔に覆われた石造りの小さな建造物だった
正面には古い文字で何かが刻まれているが
風化が激しく読み取ることはできない
『祠』の前には、しめ縄が張られており
確かに何かを封印しているような雰囲気があった
しかし、慎一郎にとって、それは単なる古い迷信の産物でしかなかった
「こんなもので呪いだって？ばかばかしい」
慎一郎は近くに落ちていた拳大の石を拾い上げた
そして躊躇することなく、『祠』の側面を激しく打ち付けた
一撃、二撃、三撃・・・
古い石材が削れ、破片が地面に散らばった
しかし、石を振り下ろした瞬間、異変が起きた
今まで鳴いていた鳥たちが一斉に静まり返った
風も止み、山全体が死のような静寂に包まれた
そして『祠』の中から、かすかに何かがうごめく音が聞こえてきた
慎一郎は初めて恐怖を感じた
しかし、それを認めることは彼のプライドが許さなかった
「気のせいだ・・・ただの偶然だ」
そう自分に言い聞かせながら、慎一郎は急いで山を下り始めた
しかし、背後から視線を感じ続けていた
振り返っても何も見えないのに、確実に何かに見つめられている感覚があった
・・・・・
『山桜亭』に戻った慎一郎は、家族には何も報告しなかった
しかし、その表情は明らかに朝とは違っていた
顔色は青ざめ、時折空を見上げては何かを探すような仕草を見せていた
午後になっても慎一郎は部屋から出てこなかった
心配した父親の清が部屋を覗くと、慎一郎は窓際に座り、じっと山の方を見つめていた
「慎一郎、昼食は？」
「・・・いらない」
それは慎一郎らしくない返答だった
普段の彼なら、食事の時間に遅れることなど考えられなかった
夕方になっても慎一郎は姿を現さなかった
心配した家族が部屋に行くと、もぬけの殻だった
窓は開け放たれており、どうやら外に出て行ったようだった
「まさか『祠』に行ったのではないでしょうか」
雅子の声は震えていた
宿の人々総出で捜索が始まった
源蔵の表情は朝よりもさらに深刻になっており、まるで最悪の事態を予感しているかのようだった
夜が深まる中、ついに慎一郎が発見された
しかし・・・それは誰もが望まない形でだった
祠から約百メートル離れた大木の下で
慎一郎は首に縄を巻かれた状態で発見されたのだ
既に息絶えており、その顔は恐怖に歪んでいた
しかし最も不可解だったのは・・・
慎一郎が首を吊ったと思われる木の枝が
地上から三メートル以上の高さにあったことだった
足場となるような物は周囲に一切なかった
・・・・・
駐在所から駆けつけた田村巡査は、現場を見て言葉を失った
三十年の警察官生活の中でも、これほど不可解な死体は見たことがなかった
「自殺にしては不自然すぎる。しかし他殺の証拠も見当たらない・・・」
田村巡査は現場検証を続けたが、謎は深まるばかりだった
縄がどこから来たのか・・・
誰がいつ準備したのか・・・
なぜ慎一郎は抵抗した形跡がないのか・・・
すべてが不明だった
そして最も不気味だったのは、慎一郎の両手に祠の石片が握りしめられていたことだった
明らかに彼が祠を破壊したことを示す証拠だった
「やはり祠の呪いが・・・」
源蔵の呟きが、集まった人々の間に恐怖を広げた
その夜、山桜亭は異様な静寂に包まれた
政治家の息子の突然の死
そして説明のつかない状況
宿泊客たちは恐怖に震えながら、自分たちの部屋に籠もった
しかし、これは始まりに過ぎなかった・・・・
真の恐怖は、これから始まるのだった
