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第4話 襲来する悪夢

三日目の夜、ついに『それ』が姿を現した


健と美咲が部屋で休んでいると


廊下から奇妙な音が聞こえてきた


ゆっくりと、しかし確実に近づいてくる足音


いや、それは足音というより・・・


何かを引きずるような音だった


「何の音かしら・・・」


美咲が不安そうに呟いた


健は耳を澄ませた


音は確実に彼らの部屋に向かって近づいている


そして、ついに部屋の前で止まった


静寂が続いた・・・


しかし、それは嵐の前の静けさだった


突然、襖が激しい音を立てて破られた


古い木枠が砕け、障子紙が宙に舞った


そして、その向こうから現れたのは、人間の理解を超える異形の存在だった


それは一見すると人間の形をしていたが


明らかに正常ではなかった


顔は病的に青白く、目は血走って異常に大きく見開かれていた


長い黒髪は湿り気を帯びて顔にまとわりつき


口元からは黒い液体が滴り落ちていた


そして最も恐ろしいのは、両手の指が異常に長く伸び


鋭い爪と化していたことだった


「ひゃあああああ!」


美咲の悲鳴が旅館中に響いた


その化け物は、美咲に向かって長い爪を振りかざした


健は咄嗟に身を挺して美咲を守ろうとしたが、その化け物の力は人間を遥かに超えていた


健は必死に抵抗した


近くにあった茶碗を投げつけ、座布団で化け物の攻撃を受け止めようとした


しかし、化け物の爪は座布団を容易く引き裂き、健の腕に深い傷を負わせた


「くそっ!」


健は痛みを堪えながら、部屋にあった火鉢を掴んだ


まだ熱い炭が入っている


彼はそれを化け物に向かって投げつけた


熱い炭が化け物の顔に当たると、それは人間とは思えない悲鳴を上げた


そして、煙のように薄れて消えていった


健と美咲は息を切らしながら抱き合った


二人とも全身に冷や汗をかき、震えが止まらなかった


「今の・・・何だったの・・・」


美咲の声はかすれていた


悲鳴を聞いて駆けつけた他の宿泊客や宿の関係者は


破壊された襖と傷だらけの健を見て言葉を失った


「間違いない・・・あれは妖怪だった」


健の証言に、集まった人々の顔がさらに青ざめた


田村巡査も現場を検証したが、侵入経路は不明だった


窓は内側から鍵がかかっており、襖以外に破られた場所はなかった


しかし、襖の向こうは廊下であり、そこから化け物が現れるのは不自然だった


「一体どこからやってきたんだ・・・」


田村巡査の疑問に、誰も答えることができなかった


・・・・・


その夜から、宿泊客たちは恐怖のあまり一カ所に集まって過ごすことにした


大広間で全員が寄り添いながら、朝が来るのを待った


しかし、恐怖の夜はまだ続いた


午前二時頃、今度は別の場所から異音が聞こえてきた


台所の方からガタガタと音がし続けている


田村巡査と源蔵が恐る恐る確認に向かうと


台所は荒らされた後のような有様になっていた


食器は割れ、調理器具は散乱し


まるで何かが暴れ回った痕跡があった


しかし、最も不気味だったのは


米びつの蓋が開けられ、中の米が床一面に撒き散らされていたことだった


そして、その米の上に、人間ではない何かの足跡が残されていた


「こんな足跡・・・見たことがない」


田村巡査は困惑した


それは人間の足よりもはるかに大きく、指が異常に長かった


まさに化け物の足跡だった


・・・・・


夜明けまで、異音は断続的に続いた


時には屋根の上から、時には床下から、そして時には壁の中から。まるで複数の化け物が旅館を取り囲んでいるかのようだった


朝が来ても、恐怖は去らなかった。それどころか、新たな悲劇の始まりを告げていた


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