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第5話 絶望の村 

四日目の朝、村でさらなる死者が発見された


村の郵便配達員である中村が、自宅で謎の死を遂げていたのだ


発見時の状況は、前日の山本老人の死と酷似していた


中村は自宅の台所で、まるで何かから逃げるように流しの下に身を隠すような姿勢で死んでいた


その表情は恐怖に歪み、口は無言の悲鳴を上げているかのように大きく開いていた


だが今回はさらに異常な点があった


中村の体には、人間のものとは思えない爪痕が無数に残されていた


特に背中と腕の傷は深く、骨が見えるほどだった


しかし、致命傷となったのは首の傷だった


まるで巨大な爪で喉を掻き切られたような痕跡があった


「これは・・・動物の仕業でしょうか」


田村巡査は震え声で呟いた


しかし、この山域にそれほど大型の肉食動物は生息していない


検死を担当した村の診療所の医師、松田は首を振った


「動物の爪にしては形が特殊すぎます、人間の爪を極端に長くしたような・・・まるで化け物の仕業としか思えません」


その日の午後、村でさらなる異変が起きた


村の雑貨店を営む武藤老人が、店の奥で倒れているのを客が発見したのだ


幸い生きてはいたが、意識を失っており、口から泡を吹いていた


・・・・・


病院に運ばれた武藤老人が回復して語った内容は、聞く者すべてを恐怖に陥れた


「化け物が...化け物が店に入ってきた」


老人の声は震えていた


「顔は人間のようだったが、目が・・・目が真っ赤に光っていて、髪は蛇のように動いていた。そして爪・・・爪が刀のように長くて・・・」


老人の証言によれば、その化け物は商品棚を次々と破壊し、最後に老人に向かって襲いかかろうとしたという


しかし、店に飾ってあった『御札』が光ったとたん、化け物は苦悶の表情を浮かべて消えたという


「『御札』が効いた?」


田村巡査は困惑した


「ええ・・・亡くなった和尚さんからもらった古い御札でした、まさかこんなことで役に立つとは・・・」


この証言により、化け物が実在することがほぼ確実となった


しかし、それは同時に、彼らが人智を超えた存在と対峙していることを意味していた


その夜『山桜亭』では緊急会議が開かれた


残された宿泊客と村の関係者が大広間に集まり


この異常事態にどう対処するかを話し合った


「もはや疑いの余地はありません」


源蔵の声は重く響いた


「『祠』の封印が破られ、古の妖怪が蘇ったのです」


橋本清は息子を失った悲しみと恐怖で憔悴しきっていたが


それでも政治家としての冷静さを保とうとしていた


「仮にそうだとして、その化け物を止める方法はあるのですか」


源蔵は深いため息をついた


「昔から語り継がれている話では、封印を破った者が死に、さらに村にいる人間すべてが死ぬまで、妖怪の怒りは収まらないとされています」


「それじゃあ・・・俺たちは皆殺しにされるということですか」


山田の声は絶望に満ちていた


恋人の由紀は泣きながら彼にしがみついていた


田村巡査が提案した


「『御札』が化け物に効いたという証言がありました。村の寺や神社に相談してみてはどうでしょう」


しかし源蔵は首を振った


「この村の寺の住職は三年前に亡くなり、後継者がいません。神社も今は無人です」


絶望的な状況だった・・・


外部との連絡手段も断たれ、村から出ることもできない


そして夜が来るたびに、化け物の脅威が増していく


「とにかく今夜は皆で一緒にいましょう」


健が提案した


「一人でいるのは危険すぎます」


全員が大広間で夜を明かすことにした


しかし、恐怖の夜は予想以上に過酷なものとなった


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