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第3話 ツッコミの嵐

「なあオヤジ……」


優が深く頭を抱えた。


「なんで……なんで俺が、女子高生三人と同居しなきゃなんねぇんだよぉぉぉ!!」


リビングの空気が、ぴしりと凍った。


黒髪の長女・ヘレナがきょとんと首をかしげ、

金髪の次女・ミーナは「ボクたち、そんなに迷惑かなぁ……」と唇を尖らせた。

水色の髪の三女・セリナは、びくっと肩を震わせ、そろそろと守の後ろに隠れる。


守は小さくため息をつきながら、優をなだめようとする。


「……まぁ、落ち着け、優」


だが、優はぐいと顔を上げた。


「落ち着けるかぁぁ!!

俺にはな、誤解されたくない奴がいるんだよ!」


叫ぶ優の姿に、守はふと心の中で思う。



(……ああ。恵理ちゃんか)



優の幼馴染。

ただの幼馴染とは、到底思えない様子だった。


優は顔を真っ赤にしてさらに続けた。


「特にだ! 女の子に“ご主人様”なんて呼ばれてみろよ!」


ミーナがきょとんとしながら「ご主人さま~?」と無邪気に繰り返し、

ヘレナは「それが正式な呼称かと存じます」ときっぱり答えた。

セリナは「……ご、ご主人さま……」と小声で呟き、顔を真っ赤にしてうつむいた。


「恵理にそんなとこ見られたら……俺、社会的に即死だぞ!!!」


優の悲鳴にも似た叫びが、リビングに響いた。


(……あっ。こいつ、無意識に恵理ちゃんの名前出しやがったな)


守は苦笑した。



──



「それとな!」


優はさらに勢いを増して、指を突きつけた。


「耳!! お前ら、その耳!!」


ミーナが嬉しそうにぴょこぴょことカチューシャを揺らす。


「かわいいでしょっ!」


「いや浮いてるって!!

そのカチューシャ、妙にリアルすぎんだろ!!

バレバレなんだよ!!」


ミーナは「えへへ」と笑いながら耳を隠そうとするが、

まったく隠しきれていなかった。


ヘレナは涼しい顔で


「現代日本には、コスプレという文化もあるそうですので」


と理論武装を始め、

セリナは「……コ、コスプレ……でも、これは、外したくないの……」と小さな声で呟いた。


「そんなんで街歩けるかぁぁぁ!!」


優が絶叫した。



──


「それから尻尾!!」


優はさらに声を張り上げる。


「お前ら、尻尾どうすんだよ!!

クッションに巻き込んだところで、モフモフが飛び出してんじゃねーか!!」


ミーナが慌てて尻尾をぎゅっと抱きしめる。

ヘレナは真顔で「隠蔽用の外套(マント)を調達する必要がありそうですね」と分析し、

セリナは「……クッション、だめ……ばれちゃう……」と今にも泣きそうな顔をした。


「尻尾引っ込める魔法とかないのかよぉ!!」


優が両手で頭を抱える。


「ないでーす!」


ミーナが元気よく即答した。


「ないんかい!!」



──



「で、服!!」


優はぐいっと指を突き出す。


「その制服!! おかしいだろ!?

どこから出したんだよ、そもそも!!!」


ミーナが胸を張って宣言する。


「魔法だよっ! 魔力で作ってるのっ!」


「物理法則どこいったぁぁぁぁ!!!」


優が絶叫し、

ヘレナは「魔界の常識ですので」と涼しい顔で返し、

セリナは「……ぬ、ぬくいから、だいじょうぶ……」と小声で呟いた。



──



「……はぁ……はぁ……」


とうとう優はその場に座り込んだ。


「もうダメだ……俺の常識が……壊れる……」


頭を抱えて震える優を見て、守は小さく笑った。

そして、ぽんと背中を叩く。


「まあまあ……とりあえず、生きてるだけありがたいってことでな」


「ありがたくねぇよぉぉぉ!!!」


優が泣きそうな顔で叫び返した。



──



「それに、だな……」


優はふらりと立ち上がる。

必死に冷静さを取り戻そうとしながら、絞り出すように言った。


「現実問題、生活費とかどうするんだよ……

この人数増えたら、食費ヤバいだろ……」


守も頭をかきながら頷いた。


「まあ……確かに、一番の問題は食費だな」




その瞬間――



ぐぅぅぅ~~~~~~~……



三つのお腹から、大音量の腹の虫が鳴り響いた。


ミーナが恥ずかしそうにお腹を押さえ、

ヘレナが目を伏せ、

セリナは「……お、おなか……すいた……」と小さな声で呟いた。



──



「……って、鳴ったーーー!!!」


優が、今夜一番の声量でツッコんだ。


守もたまらず吹き出す。


「よし、飯だ飯!」


明るく宣言する守に、三姉妹の顔がぱっと明るくなった。


外では、まんまるの満月が輝いている。


その光の下で、

三人の少女たちは静かに――でも確かに、生きていた。


俺たち家族の、新しい物語が、

ここから、ゆっくりと始まろうとしていた。


【続く】

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