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第11話 魔王様と探索準備

 一度目の探索に失敗した後、俺たちは大急ぎで購買に行き、なけなしの小遣いで回復薬と武器を買い求めていた。


「回復薬と魔力回復薬下さい。それから、このダガーナイフも」


「ナイフ? マオ、僧侶でしょ」


 ルリハがビックリしたような顔をする。


「うん。でも、ルリハの魔力を節約するためには僕も攻撃手段を持たないと」


 二人しか居ないパーティーなのだから、回復役だからだとかそんなことは言ってられない。


 普通は回復役が死んだら大変なので前には出てこないが、そこは俺は不死身なので別に良いだろう。


 二人でダンジョンをクリアするには、できればルリハの魔法はボス相手に温存し、雑魚は俺が何とかするという作戦でいくしかない。


 よくよく考えたら、今回は探索の前に仲間の魔法も確認しない、ろくに装備や回復薬も揃えないと、あまりに無計画であった。


 今の俺はかつての俺ではない。弱者だ。


 弱者なら弱者らしく、準備をきっちり行ってからダンジョンに挑むべきだったのだ。


 俺は自分の探索に向かう姿勢を反省したのであった。


人間どもの古いことわざには「ダンジョンは探索が一割、準備が九割」という言葉ファあるらしい。


 昔の俺は、腕を一振りすれば大抵の敵は倒せたので、そんな格言など気にしてはいなかったのだが、今となってはその言葉の良さが身に染みたのであった。


 ルリハが急に真面目な顔になる。


「マオ、本気ね」


「うん。まぁね」


 こちとらレベルを上げないと進級できないのだから、本気で取り組むしかない。


 俺は買ったばかりのダガーナイフを装備した。


 できる限りの装備は揃えた。


 後は次の探索までに、何とかルリハの魔力を上げる方法を考えなくては。





 悩んだ末、俺はレノルに久々に連絡をとることにしてみた。


 虹色に輝く投影機に魔力を込める。


「アレクサ」


 名前を呼んで起動させると、金髪で緑の服を着た可愛らしい人工精霊フェアリーが現れた。


「どうしましたでしょうか、ご主人様」


 アレクサがぴょこんという効果音と共に小首を傾げる。


 学園から支給されたこの最新式の投影機アレクサでは、人工精霊を呼び出すことができ、精霊を介して遠く離れた場所にいる人物と通話ができるのだ。


「えっと、通話をしたいんだけど。この番号」


 くちゃくちゃになった紙をアレクサに見せる。レノルの連絡先だ。


「かしこまりました。少々お待ちくださいね」


 しゅん、という音とともに消えるアレクサ。相変わらず不思議な魔道具だ。一体どういう魔法式しくみで動いているのか全くの謎である。


 程なくして、見慣れた銀髪の神官の立体映像ホログラムが映し出された。


 何かあったらすぐ連絡するようにと言われていたのに、しばらく放ったらかしにしておいたので、さぞかし怒っているかと思いきや、レノルは思いのほか上機嫌だった。


「実は私、最新式の投影機を買ったんですよ。凄いですねーこれ。動画もヌルヌル動きますし、音質もかなり良くてですね」


 自分の買った最新機種がいかに優れているかを喋り続けるレノル。恐らく山奥の神殿に暮らしていては誰にも自慢できないので、話し相手に飢えていたのだろう。


「いやそれはいいんだけどさ」


 俺はレノルの自慢を遮ると、さっそく本題に入った。


「――というわけで、仲間が出来たのだが魔力が少なくてあまり魔法を使えないのだ。どうしたらいいと思う?」


 レノルは眉間に深い皺を寄せた。


「そんな使えない人間、パーティーを首にしてしまえば良いのでは」


 何となくレノルはそんな風に言いそうな気はしていた。


 いや、かつての俺でもそういう判断をしていたかもしれない。


 だがそれでは困るのである。ルリハとパーティーを解消した所で、新たに仲間ができる保証なんてないのだから。


 俺はコホンと咳払いをした。


「せっかく出来た仲間なんだし、首にするのは無しの方向で。だいたい使えないのは俺も同じだし」


「そうですね」


「そうですね、じゃなくて」


 こんな失礼な部下が他にいるだろうか。


「何とかして魔力を増やす方法は無いか?」


「とりあえず、最初は金にものを言わせて魔力を増やす装備やポーションを揃えることですね。そうしてダンジョンに行き、なるべく多くのモンスターを倒せば自然にレベルが上がり、魔力が増えるでしょう」


 真面目な顔をして答えるレノル。レノルの癖にごく真っ当な普通の回答をするのだな。


「でも俺たち金が無いんだけど」


「そうですねぇ」


 レノルは考えこむ。


「そういえば私が学生の頃はアルバイトをしていました」


 そう言えばこいつ、昔は人間だったとか言ってたな。あまりレノルの制服姿は想像できないが。


「アルバイト? どんなのだ」


「学校のすぐ横に神殿があるでしょう?」


「ああ、なるほど、神殿でアルバイトするんだな?」


「いえ、適当に神殿に並んでる人に声をかけてヒールをするんです。もちろんお金を取って」


「ええ?」


 人が神殿に行くのは無料で病気や怪我を治してほしいからだ。それを金を取るというのか。しかも神殿のそばで。


「それって儲かるのか」


「ええ。神殿に来る人の中には、無料だからと軽い気持ちで来て、あの行列を見て後悔するという人が必ずいます。そこですぐに治してやると言えば、多少高くてもお金を払ってくれるというわけです」


 そんなに上手くいくのだろうか。


「でもそれ、見つかったら停学、いや退学になってもおかしくないんじゃないか?」


「そこは上手くやるしかないですね」


「いやいや、俺はやらんぞそんな危ないこと」


 できればそんな危ない橋は渡りたくない。


「魔王様ともあろうお方が、そんな小さなことを恐れるとは」


 小馬鹿にした笑みを浮かべるレノル。俺はムッとして答えた。


「俺はお前みたいな不良と違って優等生なのだよ。わざわざそんな危険を犯すほどバカではない。それ以外で何か方法はないか」


「そうですね」


 レノルは少し考え込む。


「そう言えば、その娘の使う魔法は古代魔法だと言っていましたね?」


「そうだが?」


 レノルの立体映像ホログラムがキラキラと輝く。


「では、こういうのはどうです。いっその事、考え方を変えてみるのです」


「考え方?」


 考え方を変えるとは、一体どのようなことなのだろうか?

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