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第10話 魔王様とルリハの魔法

「おっそーい」


 ルリハが腰に手を当てプンスカ怒る。


「ごめんごめん。ちょっと準備に手間取っちゃって」


 言いながらも、俺はじっとルリハを見た。

 セリの言う通り、確かに小さい。

 俺もルリハよりほんの少し大きいくらいなので人のことは言えないが。まるで小学生である。


「な、何よ、人のことジロジロ見て」


「い、いや、本当に小さいなって」


「は?」


 ルリハが慌てて胸を隠す。違う、そこじゃない。


「違うよ、身長だよ」


「どっちにしても失礼だわ」


 ルリハが頬を膨らます。


「でも男と違って女子は身長が小さい方がモテるんじゃないの?」


「イヤよ。私はもっと背が高いほうが良かった」


「そうなんだ」


「でも魔王様は山のように大きく筋骨隆々だったいうし、私もきっと将来はエルフのようにスラリとした美人になるわね」


 うっとりとするルリハ。これはツッコミを入れた方がいい場面なのだろうか。コメントに困る。


 ……とまあそんな話をしながらやって来たのは、初日の授業で来たあのダンジョンだった。


「さて、ついたわね」


 ダンジョンの横にあるプレートに手をかざすルリハ。光が溢れ、数字が浮き出てくる。


 聞けばこのダンジョンには複雑な空間転移の魔法がかけられており、目の前のこの装置でレベルを調節することで、ダンジョンは使用者のレベルに見合ったダンジョンになるのだという。


「そう言えばアンタってレベルいくつだっけ」


 クルリとルリハが振り返る。


「レベル1だよ」


「ウソ」


「残念ながら本当だよ」


 俺が答えるとルリハは驚いたように目を見開いた。


「まさか私より下がいたとはね」


「がっかりした?」


 俺が恐る恐る尋ねると、ルリハはクスリと笑った。


「ううん。変に高レベルより気楽でいいわ」


「ちなみにルリハはレベルいくつなの?」


「私はレベル3よ」


 ルリハの答えに俺もホッとする。

 なんだ。俺とさして変わらないではないか。


「私の方がレベルが高いから私がリーダーでいいわね?」


「別にいいけど」


 特に反対する理由も無いので、ルリハがリーダーということで決定した。


「じゃあとりあえず、一番下のレベルにするわね」


 浮き出た数字から「1」を選びルリハがタップすると、うなるような低い音がし、ダンジョンの入口が開いた。


「さ、行くわよ」


 二人でひんやりとした洞窟内へと足を踏み入れる。

 人工的に作られたダンジョンだけあって、 壁には松明が赤々と燃えていて足元は明るい。

 だが先まで見通せる程の明るさでなく、俺たちは慎重に先へと足を進めた。


「そう言えば、あなたは回復魔法を使うんだっけ。私のサポートをお願いね」


「うん」


 スタスタと歩いていくルリハ。

 上手くルリハをサポートできるだろうか。俺は急に不安になってきた。


 魔王城にいた頃は、他人と一緒に戦ったことなどない。

 大体の相手は、俺が剣を振るったり闇魔法を浴びせれば一瞬の内に倒せたからだ。


 それに、ルリハは魔法使いだし、よくよく考えたら二人とも後衛職ではないか。


 欲を言えば剣士とか武闘家とか前衛のメンバーが欲しいところだ。


「モンスターが出たわよ」


 ルリハの声に顔を上げる。目の前にいたのは、プルプルと揺れる青いスライムだった。


 ルリハは杖を構えた。


「ファイアー!」


 ルリハの杖から赤々とした炎が吹き上がる。スライムは一瞬で消し炭になった。


 なるほど、低レベルの割には炎の質は悪くない。スライム相手には勿体ないほどの炎だ。


「すごいじゃん、ルリハ。良い感じの炎だ」


 俺が褒めてやると、ルリハは無い胸を張って笑う。


「ふふん、そうかしら。やはり魔王の力を受け継いでいるからかもね」


 はいはい。

 俺はルリハの妄言を右から左に受け流した。


「それに、もしかしてルリハの魔法って古代魔法?」


「良くわかったわね。先祖代々受け継いでいる由緒正しい魔法よ」


 やはりか。


 俺はルリハの言葉に、道理で彼女が魔法の扱いに苦戦していたわけだと腑に落ちた。


 魔法には大きく分けて現代魔法と古代魔法の二つの種類がある。


 現代魔法は、シンプルで分かりやすく、初心者でも扱いやすいのに対し、古代魔法は、扱いは難しいが自分の好きなように魔法をカスタマイズ出来るのが特徴だ。


 今では古代魔法を使う人間はまれで、現代魔法が主流であり、学園の授業も現代魔法メインで進められている。


 ルリハのように古い家柄の古代魔法使いは苦戦を強いられるのは納得だ。


「マオ」


 俺がそんなことを考えていると、急にルリハにローブを引っ張られる。


「ボーッとしてないで、またスライムよ!」


「ご、ごめん」


 見ると、目の前に今度は三体のスライムがいる。


「ファイアー!」


 三体のスライムが一気に燃える。だが、ルリハの様子がおかしい。


 苦しそうに肩で息をしていて、いかにも疲れた様子だ。


「マオ、あんた何か攻撃魔法使えないの?」


 ルリハが俺を見やる。


「え、使えないけど」


 俺が言うと、ルリハはチッと舌打ちした。


 続いて、またしてもスライムが現れる。今度は勢いよくポヨーンと俺に向かって飛んでくる。


「うわっ」


 顔をスライムに覆われる。苦しい。窒息死するではないか。


「マオ!」


 ルリハが必死で俺の顔からスライムを引きはがす。


「はー、助かった」


「逃げるわよ」


 ボソリと呟くルリハ。顔が青い。


「え、どうして。魔法は」


「使えないわ」


「えっ?」


「もう魔力が無いのよ!」


 ルリハが汗をダラダラ流しながら振り返る。


「だって、ファイアー二発しか」


「二発しか打てないのよ」


 イライラした様子で叫ぶルリハ。


 どうやら彼女は、ファイアーを二回放っただけで魔力切れになるらしい。


 いくらレベル3だからって、そんなことってあるのか?


 俺たちは、息を切らしながらレベル1のダンジョンから逃げ出したのであった。

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