「このように、封印石を使う際には魔力の調節とタイミングが重要となる」
クザサ先生が、透明な石を手に説明をする。
「ではこれから皆に封印石を配るので、隣同士で実際にやってみるように」
二人一組のグループに、封印石と黒いカゴが配られる。
カゴの中からはゲロガーという巨大なヒキガエルの魔物が顔を覗かせていテナントも不気味である。
「げーっ、キモーイ」
隣の席のセリが悪態をつく。
今にもパンツの見えそうなギリギリ丈のスカートに、大胆に空いたブラウスの胸元。
おまけにピアスだのブレスレットだのアクセサリーをジャラジャラと付けているなんとも派手な女である。
全く、こんな女と組まなくてはならないだなんて苦痛以外の何者でもない。
「マジでこんなの捕まえるの、ありえないんですけど。ちょっとマオ、あんたやってよね」
セリが俺に封印石を投げてよこす。
「ええっ、でも僕、こういうの苦手で」
「うるさい。早くやって」
有無も言わさぬ口調に、俺は覚悟を決めた。
「ほら、開けるからね」
セリは勢いよくゲロガーの入ったカゴを開ける。
「うわっ」
だが俺は勢いよく飛び出してきたゲロガーに思わず怯んでしまった。
「どうしたの、早く捕まえてよね!」
セリが腕組みをし、不満そうな顔をする。
「わ、分かったよ。分かったけど」
俺は仕方なく封印石を構えるも、こういった魔道具には疎いので上手く使えない。
「えーっと、ここに力を込めて、えーっと」
「ちょっとぉ、アンタ本当にトロい」
そうこうしている間にもゲロガーは机の上を飛び跳ねる。焦って手が滑りそうだ。
「えーっとこうかな。ていっ」
俺は封印石をゲロガーに向けた。だが一向に何も起こらない。
「あれっ」
おかしい。これで封印石の中にゲロガーが吸い込まれるはずなのに。何度も試すも、一向に上手くいかない。
仕舞いにゲロガーは俺の封印石から逃げ、セリの方へとジャンプしてしまった。
「ぎゃあっ」
見ると、セリの顔にゲロガーが張り付いてる。
「何してんの、早くこいつを捕まえてよーっ」
じたばたともがくセリ。
俺は慌ててセリの顔からゲロガーを剥ぎ取った。
ぬちょっ。
透明な粘液が糸を引く。授業前に熱心に化粧していた顔が、見事にベタベタになっていた。
「だ、大丈夫?」
俺が恐る恐る尋ねると、セリの目が見たこともないほど吊り上がる。
「大丈夫なわけねーだろ!」
午前の授業が終わると、先生が居なくなったのを見計らってセリが俺の胸ぐらを掴む。
「アンタ、何やってんの。マジ使えねーんですけど。本当、最悪」
「ごめんってば」
俺が必死の謝罪をしたにもかかわらず、腕組みをしてフンと鼻を鳴らすセリ。
「罰としてあんた、私にポーションでも奢りなさいよね」
「えっ、でも今日はお金、そんなに持ってきてなくて」
「はぁ? だったら寮に行って取ってきなさいよ!」
腰に手を当て、上から目線で笑うセリ。
「ひぇーっ、セリ怖ぇ」
近くに座っていた男子が囃し立てる。
「当たり前でしょ。こいつは私の犬だもの。躾はちゃんとしなきゃ。ほーら、三回回ってワンしな」
「そ、そんなぁ」
そんな事できるか。大体、誰が犬だ。俺を誰だと思っている、無礼者め。
「やだーっ、セリったら悪趣味」
「でも案外コイツ、喜んでるんじゃね」
「ゲーッ、マゾかよ」
クラスのチャラい奴らが笑う。
俺は下を向いて唇を噛み締めた。
するとそこへ、教室の重苦しい空気を吹き飛ばすような高く澄んだ声が響いてきた。
「マオ、準備できた? さっさとダンジョンに行くわよー!!」
皆の視線が一斉に俺に注がれる。全身が沸き立つみたいに熱くなった。端的に言って、恥ずかしい。できれば他人のふりをしたいところだ。
「マオくん、呼んでるよ?」
俺が呆然としていると、マリナが俺の肩を叩く。
「う、うん」
「お友達ができたの? 良かったわね」
満面の笑みを浮かべるマリナ。善意なのは分かっているが、余計なお世話である。
「ただのパーティーメンバーだよ」
「そう。マオくん、あの子とパーティー組むことにしたんだ」
「うん。なりゆきで」
マリナのやつ、やけに絡んでくるな。何が言いたいのだろう。
もしかして、初日で女だという理由でパーティーを組むのを断ったのに、結局他の女子と組むことが気に入らないのだろうか。
「でも良かった。このままだとマオくん、誰とも組めないんじゃないかって心配してたの」
ホッとする表情を見せるマリナ。どうやら心配されていたらしい。
「あの子、C組のルリハさんね。凄く可愛いわよね。マオくんとお似合いだわ。ねっ、セリ」
マリナは、よりにもよって隣にいたセリに同意を求める。セリは俺の机にドカリと腰掛けると、下品な黒のパンツを見せながら顔をしかめた。
「はァ? マオが女と組むとか、生意気なんですけどー。誰が他の女と組んでいいっつった!」
なぜだか物凄く不愉快そうな顔をするセリ。逆になぜ他の女の子と組むのにお前の許可が必要なのか。
「そういう風に言うのは良くないわ。可愛いし、マオくんと組んでくれるなんて、きっと凄く良い子だわ」
「フン。確かにサイズ的にはピッタリかもね。あんたより小さい子なんて女子でもそうそう居ないし、よく見つけたわアンタ」
馬鹿にしたように笑うセリ。
「せいぜいお子様同士、仲良くおままごとでもすればァ? キャハハハハ!」
「ちょっと、セリったら」
ビッチに絡まれて気分を害しながら、俺はルリハの元へと向かった。
まったく、災難である。