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第三章 魔王様と黄金の聖剣使い

第15話 魔王様と次なる課題

「はぁ」


 明くる日。ダンジョン前で俺がため息をついていると、ルリハが心配そうに俺の顔をのぞきこんできた。


「一体どうしたのよ、ため息なんかついて。そんなにレベル2のダンジョンが不安なの?」


「それもあるけどさ、実は転校生が来るらしくてさ。しかも僕と同室になるって」


「なんだ、そんな事」


 ほっとしたような顔をするルリハ。


「私、この間風邪を引いたんだけど、その時にルームメイトが授業で休んでた時のノートを貸してくれたり、飲み物を買ってきてくれたりして凄く助かったの」


「そうなんだ?」


「ええ。だから初めは慣れないかもしれないけどルームメイトはやっぱり居た方がいいわよ。例えば病気になって部屋で倒れていても、一人だと誰にも気づいてもらえないし」


「なるほど」


 確かにそう考えると、ルームメイトは居た方がいいのかも知れない。要は俺の正体が魔王だとバレなければ良いだけの話だ。


「ありがとう、ルリハ。僕、ルームメイトと仲良くするよ」


「そうそう。それより今日からレベル2のダンジョンよ。気合い入れなさいよね」


 バシバシと俺の背中を叩くルリハ。何だか元気がでてきた。


「うん」


 気を引き締め直す。

 何せレベル1のダンジョンをクリアし、いよいよ今日からレベル2のダンジョンへと挑むのだから。


 ルリハがタッチパネルを操作し、2という数字を選ぶ。少しの間の後、低い音と共に入口が開いた。


 期待に胸が膨らむ。レベル2のダンジョンには、一体どのような敵が待ち受けているのだろうか。


 期待と不安を抱きながら、暗いダンジョンの中へと足を踏み出した。


「うわ、全然雰囲気が違う」


「そうね」


 レベル1のダンジョンはむき出しの岩壁だったのに、レベル2のダンジョンは赤いレンガの壁になっている。


 辺りをキョロキョロと見渡していると、目の前に巨大な影が現れた。


 巨大な蝶の魔物、ポイズンバタフライだ。羽についた大きな目玉のような模様が気持ち悪い。


「見たことがない敵ね」


 ルリハが後ずさりをすると、ポイズンバタフライはいきなりバサバサと羽ばたき、鱗粉を撒き散らし始めた。


 辺りが紫色の霧に覆われる。


「前が見えない!」


「ルリハ、鱗粉を吸わないように気をつけて!」


 こいつは毒の粉を撒き散らす魔物だ。吸い込んでも命に別状は無いが、しばらく痺れて動けなくなるのだ。


「もう吸っちゃったわよ!」


 地面にうずくまったまま動けなくなるルリハ。そこへポイズンバタフライが体当たりしてくる。


「きゃあっ」


「ルリハ!」


 霧に視界を奪われながらも、必死でダガーナイフを前に出す。


 ナイフはすんなりと体に吸い込まれ、ポイズンバタフライは力なく地面に落ちた。


 良かった。物理攻撃にはあまり強くないみたいだ。


 肩で息をしながらルリハを助け起こす。


「はぁ。助かったわ」


「大丈夫そう?」


「大丈夫。けど何だか頭がクラクラする……」


 青ざめた顔で、苦しそうに肩で息をするルリハ。


「待ってて。今、ヒールするから」


 慌てて回復魔法をかける。


 ――がルリハの顔色は一向に良くならない。唇まで真っ青で、体はガタガタと震えている。


「ヒールが効かない?」


 頬を汗が流れ落ちる。ひょっとするとヒールでは毒まで消せないのかもしれない。


「仕方ない。保健室に毒消しがあったはずた。今日はこの辺で切り上げよう」


「でも折角来たのに」


 無理して起き上がろうとするルリハ。俺は強く首を横に振った。


「いや、無理は禁物だよ。今日は初日だし、様子見という事にしよう。ねっ?」


 必死に説得すると、ルリハは下を向き、渋々同意した。


「分かったわ。そこまで言うのなら」


 ルリハに肩を貸し支えてやると、二人でフラフラと入り口へと引き返す。


 おかしい。レベル1から2に上がっただけなのに、こんなに強い敵が出るなんて。いきなり難易度が増しすぎではないか。





 ルリハを保健室に送り届けると、俺はその足で図書室に向かった。毒消しの魔法を調べるためである。


「あった。これだ」


 魔法書を二、三冊読み漁り、ようやくキュアという毒消しの魔法を見つけた。


「必要魔力……うーん、結構高いな」


 今の俺では魔力が足りなくてとても扱えそうない。せめてレベルをもう1つか2つ上げないと厳しいかもしれない。


 もう何度かレベル1のダンジョンに潜り、レベルを上げてから挑むべきだろうか。


 折角レベル2のダンジョンに来たのだし、できれば先に進みたいのだが。


「購買で毒消しの薬でも買って対策すればいいかな。案外それで何とかなるかも」


 今の時間では購買ももう閉まっているだろうから、明日買っておくか。


 窓から外を見ると、調べるのに夢中になっていたせいか、辺りはもう半分夕闇に包まれていた。


 ルームメイトも来るというし、そろそろ寮に帰るべきかもしれない。


 人の気配のない廊下を一人で歩く。がらんとした校舎はいつもと違って何だか不気味だ。


 それに――不気味なだけじゃない。


 まとわりつくような、闇の底から湧き上がってくるような、嫌な気配がするのは気のせいだろうか。


 ――ドクン。


 不意に心臓が鳴った。


 嫌な気配は気のせいではない。


 生徒玄関口まで来たところで、目の端に黒い塊が映ったのだ。


 初めは人間がうずくまっているのかと思った。だが違う。そこには黒い影があった。


 西日に照らされ、影がゆっくりと振り返る。


 そいつの顔はネズミだった。ネズミの姿をしたモンスターが玄関口の隅から俺の方をじっと伺っていた。


 大型犬ほどもある黒い体に、真っ赤に光る目。硬い毛皮は脂でも塗ってあるかのように光り、ドブのような臭いがあたりに漂う。


 モンスターだ。


 思わず後ずさりをする。


 おかしい。学校の周囲には結界が張ってあるはずだ。なぜ校舎の中にモンスターが。


 俺はゆっくりとダガーナイフに手をかけた。



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