【本文】
大霊峰の頂上に君臨するのは、新雪よりも白い純白竜。
たぶんオレのじいちゃんか親父だ。
白ってのは竜の中でも特別なんだぜ。
目の前でイキる下品なピンクのメスガキみてると、イラついてしかたねぇ。
ゴミカスの肥だめみてぇな、腐って混ざった遺伝形質。
オレは……違う。
オレには最強の……竜の王の血が流れてる。
半分かもしれねぇけどよ、間違いなくオレは「白」の一族なんだ。
なのに――
大霊峰が遠い。
今はこんな偽物の場所に……世界の果てに追いやられちまった。
オレは強かった。同世代のドラゴンの中でも、圧倒的なパワーとスピードを誇っていた。
誰もついてこられない。
オレの爪に切り裂けない鱗はなく、牙で相手の喉元に噛みつけば、そいつはブルって負けを認める。
弱い連中を蹂躙すんのは、そりゃあ楽しかったぜ。
オレはもっと強くなる。
白の一族なんだ。なにもしなくとも、あの山の頂まで順調に登っていくと、信じてた。
なのによ。
二千年を超えたあたりから、それまで眼中にもなかった青銅竜や真鍮竜に勝てなくなっていった。
奴らとオレで何が違う?
産まれの高貴さで圧倒してるのに……。
クソが。
オレが……オレが純粋な白竜だったら、下品な色つきなんかに負けないのに。
もう、大霊峰はあんなに遠い。オレはこの「白の谷」から一歩も動けない。
新雪には遠く及ばない、濁った白い荒野がオレにはお似合いってか。
同世代の連中の中には、裾野を超えて三合目にまでテリトリーを持ったやつがいる。
弱虫のクソ雑魚の分際で、オレに羽ばたかせないように立ち回り、爪をかわし、牙を首にかけさせないように、防御……防御……防御。
卑怯じゃねぇか。オレの負けじゃねぇ。こっちが攻めたんだ。勝ってたんだ。
ほんの一瞬、息が上がったタイミングで、偶然アイツのブレスがオレの逆鱗にヒットしただけ。
あの日からだ。
格下にすら、負けるようになったのは。
気づけば同世代どころか、下の世代のガキどもにも抜かれちまった。
このままじゃ、オレは……追放だ。
クズ竜どもとは違うのに。白の一族に違いないのに。
もう、この辺りにゃオレより弱い竜はいない。
何が違った? どこで間違えた?
あいつ言ってたな。勝敗は戦う前からわかってた……だとよ。
なにが作戦通りだよ。ラッキーなだけじゃねぇか。
そうだ――
アイツもたしか、目の前のこいつほどじゃないが、うっすらピンクがかった白をしてやがったな。
決めた。
この桃竜で、たっぷり楽しんでやるぜ。
殺しはしない。が、殺してと言いたくなるくらいに、痛めつけてなぶって苦しめてやる。
悲鳴もまいったの声もあげられないよう、喉を潰して身動きを封じ、鱗を一枚一枚剥がしてやる。
絶望しろ。テメェはもしかすれば、アイツの……桜花竜の親戚かもしれんのだからな。
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岩陰より特派員のメイヤ・オウサーがお伝えします。
ドラミはがんばった。善戦した。自分よりも大きな相手に立ち向かい、ドラゴンの中では弱火くらいのブレスをぶつけ、桃色の翼で白灰竜を打ち据えた。
けど、ビンタ程度で沈む相手じゃなかった。
ドラミの鱗を白灰竜の爪が引き裂き、胸を深くえぐった。
尻尾で打たれてピンドラが悲痛な声を上げる。
私はドラミに叫ぶ。
「もういいぞドラミちゃん! この先はお兄ちゃんに任せるんだ!」
『だ、だめ! だめ! 絶対だめ! お兄ちゃんでもこいつに……勝てないかも……に、逃げて! ドラミばかだった。いいとこ見せたくてイキっちゃったの!』
やっぱ人間ってことで、ドラゴンからすれば弱者扱いなわけなんだな。
「耐火レンガは聖王都のダンキで買うから心配いらんぞ~!」
『で、でもにぇ……ウチはお兄ちゃんのお役に立ちたいの! だって、シャロンちゃんは木こりさんだし、サキュルちゃんは糸を巻き巻きできるし! ウチは森だってウールだって燃やしちゃうから……レンガ……お兄ちゃんが褒めてくれて嬉しかったの! 追放されて独りぼっちで……変だよね。ドラゴンは繁殖期以外は、一人で過ごすのにね……家族に……いれてもらえて……とってもとっても感謝してるからッ!!』
ドラミが渾身の熱線ブレスを白灰竜に放つ。
白灰は岩石みたいな翼で全身を守るように構え、ピンドラの淡い炎を防いだ。
『あうぅ……お兄ちゃん……ごめん』
ドラミが膝から崩れた。力を使い果たしたようだ。
そんなになるまで、全力で格上に戦いを挑むなんて。立派だったぞ。
コーラルピンクの瞳が涙を落とす。
本当に、悔しかったんだな。
「謝ることはないぞ。我が妹よ。貴様はよくがんばった」
傷だらけでボロボロだ。命に別状はないかもしれないが、大けがじゃないか。
今すぐ止めよう。
「おいそこのグレーの貴様。こちらの負けだ。すぐに立ち去るから……」
と、私が言い終わるのを待たず、白灰竜は尻尾を巻き付けドラミの身体を拘束した。
胴を締め上げ密着する。なんかちょっと……あの、うちの妹さんにいかがわしいことするのやめてくれません?
白灰が私を見下ろす。
『まだこのクソガキは自分の口で負けたって言ってねぇよなぁオッサン?』
「だれがオッサンだ。こちとら二十台前半のぴっちぴちのお兄さんだぞ」
『指図すんじゃねぇ黙ってろ下等生物。ルールは教えてやっただろ? 殺さなきゃなにやってもいいんだよ。オレはこのガキみたいに頭の悪そうな色の竜が大嫌いでな。殺しても殺し足りねぇんだ』
なんだか知らんが、初対面のドラミに敵意MAXか。
「おい貴様。それ以上、うちの妹ちゃんを苦しめるな。警告する。今すぐ解放しろ」
『黙れよ無力で矮小な人間。今からストリップショーの始まりだ。コイツの喉を噛み潰し、声を上げられないようにしてから、鱗を皮ごと剥ぎ取ってやるぜ。せいぜいそこで指をくわえて見てるんだなぁ……ヒャッハッハッハッハ!』
ブチッ。
あ、いっけなーい。キレちゃいましたよ私。
こっちはもう負けを認めたっていうのにさぁ! なんでもありってぇ!
昔の人は言いました。
討っていいのは討たれる覚悟があるやつだけ……ってね。
はーもう、やっちゃうよん。
極大破壊魔法(ソードフォーム)。セットアップ。術式省略。ま、いつも適当ぶっこいてるんだけど。
覚悟の準備はいいかね白灰竜君。ここからは、ずっと私のターンだ。
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