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71.ドラゴンスレイヤーのメイヤさん


【本文】

 白灰竜がドラミの喉に牙を立てる。


「――ッ!?」


 声にならない妹悲鳴。苦しげだ。白灰の視線が私を見下す。


 高圧的で加虐的。


 ねえねえ見ってる~お兄ちゃん? 今から妹さんをいたしちゃいま~す♪


 ほれ、止められるもんなら止めてみろ……ってか。


 やってやろうじゃねぇかあッ!


 短杖の先端から青白い光の刃を生み出す。


 最終勧告。


「あと少しでもドラミの喉に牙を食い込ませてみろ……死ぬぞ貴様」


 テレパシーにて返答あり。


『下等生物に何ができる?』


「なあ、なんでもありなんだよな? ドラゴン同士の殺し合い以外は?」


『さえずってろ雑魚が。たまたま最下級ドラゴンを従えた程度で、オレにたてつこうなんて億年早ぇんだよ!』


 はい、交渉終了。解放しろと勧告はしたからな。


 私は短距離転移魔法で灰白竜の尻尾のやや上方に跳ぶなり、ごんぶとな根元目がけて極大破壊魔法の刃を叩きつけた。


 落下の勢い×破壊の刃が岩石めいた鱗を、常温で三日放置したバターのように大切断。


「ギャルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアア!」


 白灰はドラミの喉から牙を抜き、大気を揺らすほどの絶叫を上げた。


『な、な、な、なんだテメェはああああああああああああああああ!』


「聞かれて名乗るもおこがましいが、我が名はメイヤ・オウサー。聖王国は魔導学院(アカデミー)植物魔法学科中退、軍属後に辞職。現在、中央平原にて気ままなキャンプ暮らし中の天才大魔導師様だ」


 白灰竜が首をぶんぶん揺らす。切り落とした尻尾は地面に落ちると、びくんびくんと跳ねた。ぐっろ。


『オレの尻尾がああああああああああ! なんてことしてくれやがんだああああ!」


「私は大切な妹を解放しただけだ。尻尾? あー、そんなんもありましたね」


『ふ、ふざ、ふざけんじゃねぇええええ! 高貴なる白の一族の尻尾だぞッ!!」


 しらんがな。

 けどほら、アレじゃん。トカゲといっしょで生えるっしょ。そのうちさ。


 ピンドラがうっすらまぶたを上げる。


『お兄……ちゃん……』


「寝てろ。すぐに片付ける」


『うん……やっぱり……お兄ちゃんって……かっこいい……にぇ……』


 スッと瞳を閉じてドラミは眠りについた。


 よかった。いかに相手が悪党でも、同族が苦しむ姿を妹ちゃんには見せたくなかったし。


 白灰のバカと違って、ドラミは根っこが優しいから同情しちまうに違いない。


 さて――


 白灰竜に向き直る。


「人間の私なら、貴様を倒してしまっても構わんのだろう?」


『う、ううっ……なんで……下等生物にまで……負けなきゃならねぇんだよおおおお!』


 白灰が口を開く。熱線ブレスだ。短距離転移で懐に飛び込む。


 首の下げられる角度にしか撃てないってのは弱点だな。


 竜の胸に極大破壊魔法の刃でXの字を刻んだ。


「グルオアアアアアアアアアアアアッ!?」


 まさか私から距離を詰められるとは想定外だったようだ。


 白灰の鱗を血の赤で染めて、山の巨体が後ずさる。


 指で弾けば吹き飛ぶような、矮小な人間相手に気圧されるなんて……プークスクスプリプリプルップル。笑けてきたわい。


 青白い切っ先を上に向けた。ホームのランを予告するが如く。


 狙うは白灰の長い首級(くび)。


『ひ、ひぃッ!?』


 心の声で上げた悲鳴がダダ漏れだぞ。


 白灰が翼をはためかせた。させるかよ。


 後背に転移して、なんでも切れる魔法の剣で片翼をズバッと落とす。


 もうね、魚でも三枚に下ろす感覚だわ。


「ギョアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 これじゃどっちが悪役だかわかったもんじゃない。


 けどな――


「貴様が始めた物語だ。途中退場なんて認められると思っているんですかぁ?」


『ゆ、許してくれ……悪かった……もうそこのガキにゃ手を出さん。この場所も明け渡す!』


 反省の弁も謝罪も腹の足しにならん。


「負けを認めたな?」


『あ、ああ認める! まいった……オレの……オレの……ううっ……ま、ま、負け……だ』


 よっぽど言いたくないらしい。何度も口ごもりおってからに。


 ま、そっちの事情なんぞ知ったことか。


「残念だったな白灰よ。巻いて逃げる尻尾はもう無いんだ。高飛びも片翼じゃ、そのデカい身体が浮きあがらんだろ」


 なんつーか、翼のサイズと身体のデカさからして、羽ばたいて飛ぶっつっても鳥のそれとはちょっと違う気がするんだよな。


 ドラゴンが持つ魔法力で身体を浮かせてるって印象だ。知らんけど。


 とはいえ、翼がなけりゃコントロールは効かんだろう。


『オレを……殺す……のか?』


「確認したよな。ドラゴン同士の殺し合い以外、何でもありって」


『…………』


 テレパシーまで黙っちゃったよ。


「走って逃げてもいいが、私が短距離で転移魔法を使えるというのは、図体ほどにはデカくもない脳みそでも理解できてるだろ?」


『う、ううっ……』


「大魔導師からは逃げられない」


 決まったぜ。時々、なんか頭の中にこういうフレーズ浮かびまくるんだよな。

 前世の記憶か何かが呼び起こされているんですかね。


 ま、どーでもいいが。


 白灰竜は身をかがめ、地に頭をつけた。


『な、なら……オレと……契約して……くれ……ください……命と引き換えに……軍門に……く、くだ……る』


 私は白灰の壁みたいな頬を蹴る。


「貴様みたいな弟はいらん。一緒にいるドラミちゃんが気まずいでしょうが」


『じゃ、じゃあどうしろってんだ!』


「失せろ……」


『ま、待ってくれ! 行き場なんて無いんだ! もし、他の竜に……人間に負けたあげく、見逃されたなんて知られたら……オレはもう生きていけねぇッ!!』


「知るか。あと一秒で逃げなかったら……殺ちゅ♥」


『時間短ッ! ひ、ひいいいいいいいいいッ! お、覚えてやがれええええええええええ!』


 白灰竜は無くなった尻尾と落とされた翼を抱えると、ドタドタと平野の裾野を下っていった。


 首じゃないだけマシと思って、どうぞ。


 殺さなかったのにも多少は考えがある。


 第一に、竜殺しをすれば竜族全体と対立するかもしれない。聖王国と魔帝国だけで手に余る。


 第二に、宣伝効果。ドラゴンにとって「強さ」は存在価値みたいだ。白灰竜をボコったことが大霊峰地域に広まれば、居留を認められる……かも? みたいな。


 まあ、ドラゴンの気質にもよるけどな。強い奴に会いに行くパターンの竜だと、わざわざ山から降りてくるかもしれん。


 そんときゃそんときよ。ぶん殴ってわからせてやる。


 んなことよりも、ドラミが心配だ。

 小山くらいの巨体、転移で動かすのもちょっと危険かもしれんな。馴れないと転移で酔ったりするし。


 私は一度キャンプに跳ぶと、治癒と回復のエキスパートを連れて戻ってきた。



 伐採職人こと、元聖女がドラミの鼻先にそっと触れる。


「こんなにボロボロになるまで、メイヤさん! 監督責任不行き届きよ? 強いんだから、守ってあげないと。ドラミさんは女の子なんだし」

「か弱くはないだろ。男だ女だは関係ないぞシャンシャン」


 黒ゴス修道女服の少女は不満げだ。

 その手から柔らかい光の聖属性を帯びた回復魔法力が、ドラミに流れ込む。


『ふあぁ……気持てぃ……いい……』


 ピンドラの身体の傷が癒えていった。さすが元聖女だ。サキュルの時は闇属性と反発して、淫魔を悶絶させた回復魔法だったけどな。


 半分気絶していたピンドラが、くーくー寝息を立てた。気持ちよさげにゴロゴロ喉を鳴らす。猫かな?


「助かったぞシャンシャン」

「どうして最初からメイヤさんが悪党をシバかなかったの?」

「ドラミちゃんが……がんばりたいってさ。私にせよシャンシャンにせよ、サッキーにせよドラゴンからみれば『小さくてかわいい生き物』みたいなものらしい」


 元聖女はハッと目を丸くする。


「あ、そっか。そうね……あたしたちが小さな動物をかわいいもの、守ってあげたいって思うのと一緒なのね」

「ま、死ななければなんとかなるとは思ってたからな」

「え? どうしてよ」

「元聖女の貴様を頼りにしていたってことだぞ」


 途端にシャンシャンの顔が真っ赤になった。


「と、当然よね。あたしって元はつくけど第一級聖女なんだから」


 なんか嬉しそうだな。


 ほどなくして、ドラミの身体は綺麗に治った。やはり聖女だ。奇跡の力は伊達じゃない。


 白い粘土質たっぷりの土地もゲットしたことだし。



 後に――


 大霊峰とその裾野の竜族たちに噂が広まった。

 かつて一世を風靡(ふうび)した白灰竜が敗北したのだ。


 相手は以前、追放処分され聖地から居場所を失った桃竜。


 と、その契約者の人間だとか。


 竜たちの間では、最弱レベルのドラゴンに人間が仲間になったくらいで……と、眉唾な話だったわけだが……。


 竜の掟に則(のっと)り、桃竜の追放処分は解除。縄張りを得たことで、仲間として再び認められる流れとなったとか。


 あとから聞いた話だけど、契約者の私もセットで竜族の仲間になるんだってさ。


 変なの~ふっしぎ~。


 ドラゴンはドラゴンを殺してはならない。


 つまり、私はもうドラゴン。縄張りバトルですら、同族に殺されないようになったらしい。


 白い耐火レンガを作りたかっただけなのに――


 おもしろ家族に竜族(全体)という、大きな親戚組織ができましたとさ。


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------------------------- エピソード72開始 -------------------------

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