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72.ピザが食べたいなら窯を作ればいいじゃない?


【本文】

 白い耐火レンガの増産が始まった。

 白の谷で良質な粘土質が取り放題である。


 快復したドラミはというと、どうも憶えていないそうな。


 あるのは白灰竜に蹂躙(じゅうりん)されたところまで。そのあとのことは意識が朦朧(もうろう)として、記憶にございませんとのこと。


 谷の粘土をドラゴンモードで掘り出し、近くの沢の水でこねこね。

 大きな身体の割に器用なドラミが木枠を使って粘土ブロックを整形する。


 私が最初につくってもらった木枠では、一度に8つが限度だったのだが――


 シャンシャンが森で切り出した硬めの木材で、限界まで大きく作った特性木枠を使うことで、一度の整形で72ブロックを型抜きできるようになった。


 並べたブロックをドラミが火炎ブレスで焼き上げる。割れたりなんたりもあるんだが、生産速度は9倍だ。


 んで――


 数日ごとに白いレンガが届くようになった。


 ドラミがもたらした耐火レンガで、さっそく私はパン焼き竃を作る。



 書庫の主はフッと口元を緩ませた。


「君、素人が作るならシンプルな設計がいいだろう」


 窯の内部をアーチ状に組むと、空気が対流して均一な温度で焼きムラが少なくなるんだそうな。


 けどまあ、最初は簡素な二階建ての四角い窯がオススメだってさ。

 自分じゃ飲み食いしないのに、私よりもわくわくしてるな。ありがたい指示厨である。



 焚き火台の脇にて作業開始。

 まず基礎となる石の板を敷く。採石場から切り出した、厚み10センチほどの玄武岩だ。


 これに白い耐火レンガを18個。正方形になるように並べて「火床」を作る。


 二階建ての一階部分だ。薪を燃やす部分である。


 隙間ができないように、白の谷の粘土を含ませたセメント(砂やら砂利やら石灰やらを水で練った奴?)で接着する。


 で、正面部分に開口部が出来るようにコの字型にレンガを積むんだが――


 いくつか半分に切った正方形に近いレンガを用意。なんかね、レンガって互い違い? みたいなかんじで積むものらしい。まっすぐ積むのは棒積みといって、重ねるほど安定感もなくなるんだとさ。


 ま、世の中のレンガ造りの建物に倣(なら)うとしましょ。家の壁ってわけでもないし、誤差っちゃ誤差だけど見栄え重視で。


 んで、四段ほどレンガを積んだら、奥側に空気の取り入れ穴を作る。つっても、これも簡単。ハーフブロックを置くだけだ。レンガ半個分の隙間が出来上がった。


 一階部分の蓋にするため、切り出した石版をドンと設置。こちらも極大破壊魔法のソードフォームで切り出したものだ。


 花崗岩(かこうがん)にしてみた。強度とか大丈夫かわからんが、蓄熱性があるそうな。


 で、二階部分も耐火レンガを積んで、天板にもう一枚花崗岩を設置。

 熱が逃げないように、天板の上にもレンガを並べてひとまず完成だ。


 と、作業を終えたところで淫魔が胸をゆっさゆささせて、焚き火台エリアにやってきた。


「ねえねえ早くピザ焼いて! もうお腹ぺこぺこだよメイヤ!」

「気が早すぎだろ貴様。窯は形になったが、接着部分が固まるまで放置プレイだぞ」

「えー! なんでぇ!」


 虹色の光彩を涙で濡らす淫魔。泣いても叫んでも逆立ちしても、ピザは明日以降だ。


「なんでもなにもあるか」

「じゃあじゃあ……そうだ! レンガちょうだい!」

「は?」

「余ったレンガでね、いいこと思いついたんだぁ♪」


 ニッコニコの淫魔である。まあ、レンガで何がしたいのかはしらんけど、使い切れなかった分が資材置き場の屋根の下に積んである。


「好きにしろ」

「わーいわーい! じゃあ、サキュルもやってみるね!」


 彼女はレンガをログハウス脇に運んだ。


 アヒルのキングが住まう、ちょっと大きめな犬小屋の前へ。


 何を思ったのか、小屋の周囲に耐火レンガを積み始めた。


 中のアヒルが「グワッグワ!」と、声を上げて顔を出す。


「大丈夫だよキング。こうしてレンガの家にグレードアップしてあげるから」

「グワワ?」

「そうだ、入り口にも積んじゃおうね」

「グワグワワ!」


 鬼畜と化した淫魔がアヒル邸の玄関部分をブロックで塞いでしまった。


 耐火ブロックで完全包囲したところで――


 サキュルが私を手招きした。


「ちょっと来て来てメイヤ!」

「何がしたいんだ貴様は」

「今は何の疑問も持たずに、ひとまず着火の魔法を使って欲しいんだ」

「貴様、アヒルの丸焼きを作ろうとするんじゃないよ!」

「だ、ダメ?」


 と、聞かれて一瞬だけだが「ダメってこともないか」などと、思ってしまった。

 きっとジューシーに焼き上がるだろう。


 とはいえ――


「ダメに決まってるだろうがバカちんが」


 私は着火の魔法ではなく、淫魔の額にデコピンを食らわせた。


 少女がおでこを両手で覆って、悲鳴を上げる。


「いった~い! んもー! 冗談! 冗談だって! けど、一瞬、間があったよね? メイヤもジューシーお肉食べたいって思ったよね!?」

「一応、キングはコアから預かってる、我が家の賓客だぞ」

「そーだっけ?」

「貴様の糸巻きの手伝いだってしてくれただろ?」

「ちゃんとイワナあげてるんだから、キングだって労働すべきだよ! それにね、最近、ふっくらしてきてさぁ……食べ頃感? 出ちゃってるみたいな」


 アヒルの世話はサッキーに任せきりだったが、なるほどこいつ。率先して川魚を食わせていた理由は……キングのフォアグラ化計画か。


 私に気づかせず水面下で進めていたことだけは褒めてやろう。


 が、食わせるわけにはいかない。コアが悲しむだろうしな。


「いいかサッキー良く聞け。アヒルがいないと、貴様やシャンシャンだけでコアの元に行けないだろうに」


 キングが……というか、キングの頭に乗った王冠に秘密があるらしく、白いお尻をフリフリするメスアヒルは、地底深くの書庫まで転移する力を持っている。


 犬小屋の中から気配が消えた。閉じ込められて帰ったか。


「なんだか静かだねメイヤ?」

「転移魔法で書庫に帰ったんじゃねぇの?」


 私があごで合図すると、淫魔は塞いだ入り口のレンガをどけ始めた。


 その途中で――


「クワッグワクワグワグワワアアアアア!」


 息を潜めて待ち伏せしていたアヒルのクチバシが飛び出して、かがんだサキュルの額にブスッと突き刺さった。


「――ッ!?」


 淫魔はその場でゴロゴロ転がる。悶絶。ドしがたいMでも、心の準備ができていなかったらしく、痛みを脳内快楽物質に変換不能だったらしい。


 誇らしげな立ち姿でアヒルは小屋から出ると、倒れた淫魔の胸に乗り、天を仰いだ。


「クワグワアアアアアアアアアア!」


 はいはい、貴様の勝ち貴様の勝ち。ついにアヒルにまで負けた淫魔の明日はどっちだ。


 なお、属性不一致もあってサキュルの負傷は元聖女では癒やせない。というか、ダメージが入ってしまう。


 しばらくサキュルには反省と安静が必要そうだな。そうこうしているうちに、ピザ窯もできあがるだろ。


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------------------------- エピソード73開始 -------------------------

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