【本文】
翌日のお昼前――
今日はドラミも人間の姿でキャンプ地に戻っている。
先日、サキュルに焼かれかけたアヒルが私の足下をうろうろそわそわ。
ピンドラ少女とキング(メス)の視線がぴたりとあった。
「お兄ちゃんの邪魔しちゃダメだよ?」
「グワッグワ!」
「お魚ピザがいいの?」
「グワグワワ!」
「今日はお魚ないにぇ」
「グワアアアアアン!」
なんか、会話してるぞ。
「おい妹ちゃんよ。キングの言ってることがわかるのか?」
「え? お兄ちゃんわかんないの?」
大型犬がじゃれつくように、私に抱きつく妹ドラゴン。
と、作業場から割った薪を抱えて、シャンシャンとサッキーがやってきた。
淫魔が私の背後から抱きつく。
「あ~! サキュルもサキュルも~! 抱っこ抱っこ!」
前門の竜後門のサキュバス。前後から柔らかいものをぐいぐい押しつけられた。
ふかふかパンに包まれたハムや卵の気持ちである。おっぱいサンドイッチだ。
「挟むんじゃないよ貴様ら!」
淫魔がおんぶ状態になり、私の背中をよじ登って後ろから耳たぶを唇でハムハムしてくる。
やめんか。ぞわぞわするだろうに。
「んふ~! メイヤ残念でしたぁ。ドラミは妹だから百合になりませ~ん!」
前のピンドラはツインテールをふぁさっと傾けた。
「お兄ちゃんユリってなに?」
「知らなくていいぞ。おいコラ淫魔。ピュアな妹ちゃんに変なこと吹き込むんじゃないよ」
「ええぇ? 変なことじゃないよ? 淫魔の常識だよぉ?」
偏ってるんだよなぁ。世間一般的には。
で、元聖女はというと。
ピピーッ! と、首からヒモで提げている銀のホイッスルを鳴らした。今朝、ダンキにピザの材料を買いにいった時、ついでに「欲しいの、お ね が い」されてしまったものだ。
さらに元聖女は懐から黄色い札を取り出して天に掲げる。
「二人ともそこまでよ。今のはイエローカードね。累積警告二枚でレッドになったらお仕置きよ!」
ホイッスルと一緒に欲しがった黄色と赤のカードって、そういう使い方したかったわけね。
淫魔がパッと私から離れた。
胸をゆさゆさしながらシャンシャンに向き直る。
「な、なにそれ!? そのルール!?」
「今日からあたし、木こりのお仕事に加えて治安維持の職にもつこうと思うの。ね? いいわよねメイヤさん」
ストッパーをかって出たわけだ。
「ん、まあ、やりたいというなら構わんが、貴様は誰が裁くんだ?」
「裁かれるわけないでしょ? 元聖女だもの。悪いことなんてしないわ」
「いやいやいや、貴様だってアレだぞ。大概だぞ?」
「そんなことないわよ、だからいいでしょメイヤさん?」
シャンシャンは鼻の穴とふわふわ金髪をぶわっと膨らませた。
あっ……やばい奴が権力持とうとしてるかも。
私に抱きついたままピンドラが頷く。
「そーだよお兄ちゃん! なんだかわかんなかいけど、シャロンちゃんは悪いことしないなぁって気がするなぁ」
記憶は飛んでいても、それとなく元聖女に対して好意的なドラミである。
命の恩人ちゃ恩人かもだしな。
「グワッグワ!」
ドラミの足下でアヒルが首を左右にぶんぶん振った。
「ありゃりゃ? キングちゃんは反対なんだって」
賛成:シャンシャン(本人) ドラミちゃん
反対:サッキー(一番やらかしそう) キング
人が三人集まれば派閥が生まれるらしいんだが、たった四人と一羽でこうなのだから、世界に争いがなくならないわけだ。
全員の視線が、最後の一票を持つ私に注がれた。
「まいったな……」
シャンシャンなら上手くやってくれそうな気がするのだが、性根が狂人なのが玉に瑕。
どういうことかといえば――
聖属性の回復魔法があるんだから、ちょっとくらい殴ってもいいわよね?
とか、普通にやりそうな、サイコがパスっちまうことがある。
しかも、一番やられそうなサッキーには回復魔法=聖属性弱点で拷問。な、わけだし。
淫魔が涙目だ。私の前に跪(ひざまず)き祈る。
「良い子になるから! サキュル良い子になりますからぁ!」
なぜか並んでピンドラも祈るポーズだ。
「ウチは良い子だから大丈夫大丈夫」
ポンなドラゴンなので、その大丈夫が命取りになりかねん。
しかし――
ツッコミがおいつかなくなり、私自身が自由にボケ倒せない現状においてシャンシャンの申し出はありがたい。
と、いきなりアヒルが翼をぶわっと広げて、転移魔法で消えてしまった。
のだが、すぐに戻ってきた。
黄色いクチバシに手紙が添えられている。私宛だ。
ありがとうアヒル郵便。差出人はもちろん、ロリコア書庫である。
『わたしはキングに全権を委ねるよ、君たち』
ロリコアが反対に一票投じて過半数。と、思いきや。
『だが、この集落の首長はメイヤ・オウサーだろう。決め給(たま)えよ、君』
はいはいはい。
「シャンシャンよ、貴様を司法長官に任命する」
「え!? いいの!?」
「言い出しっぺが驚くんじゃないよ。ただし……条件がある」
「なにかしら?」
「まず累積についてはその日の深夜零時にリセット。明日以降に遺恨は持ち越さないこととする」
元聖女は「まあ、それくらいなら」と頷いた。
が、これだけじゃない。
「それとシャンシャン……お仕置きは無しだ。警告だけ。誰も罰するべからず」
と、ここで意外にもサキュルが「はーい」と手を上げた。
「お仕置きないと意味なくない? それにさぁ……お仕置きされたい時もあるし」
反対しておいてこいつもこいつで頭がおかしいな。
であるならば――
「では、警告二回でお仕置きになった場合、両者の合意のもとでお仕置きありとする。で、どうだ?」
淫魔は尻尾をピンと立てた。
「おけまる~! んじゃ、今日からはメイヤさんに……一日一回! 感謝の逆セクハラしてもいいんだね!」
「言い訳ないだろうが。貴様、私は私の判断で迎撃するからな」
「むふふ♪ そこは淫魔の腕の見せ所。ラッキースケベ空間に引きずり込んで、不可抗力ってことにしちゃうし」
途端にシャンシャンが慌て出す。
「だ、ダメよそんな! 仕組まれたラッキースケベなんて! は、はしたないわ!」
「もう遅いんだよシャロン。一回までなら誤射っていうルールが制定されたんだからね」
悪用する気満々ですか、この淫魔は。
【リアクション】
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