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74.ピザ焼きの時間だあああああああああ!


【本文】

 で、話についてこられていないドラミちゃんはというと――


「お兄ちゃん~! 薪のセット終わったし、着火していい?」


 ドラゴンの姿になって、ピザ&パン焼き窯めがけてブレスを吐こうとしていた。


「待て待て。薪を消し炭にするつもりか貴様」


 止める私の後ろでシャンシャンが「こうなったら、あ、あたしがサキュルさんのセクハラをこの身に受けて、メイヤさんに迫った瞬間に警告できるようにしないと……うう」と、謎の決意を固めていた。


 一方淫魔は「サキュルはどちらでも構わないけど? っていうかーお仕置きも込みで一日三回美味しい思いできちゃうかも?」と、うっきうきだ。


 ルールって、制定すると抜け道ができるんだなぁ。淫魔があんまりやりたい放題するようなら、現行犯デコピン刑である。


 窯の下段の火床に薪を並べ、焚きつけに松ぼっくりやらをぶち込む。着火の魔法で燃焼開始。


 程なくして、上段の窯の空気が熱せられた。ドラミの焼いた耐火レンガと、白の谷産耐熱セメント(モルタル?)は、見事な蓄熱性でいい感じに空気を温める。


「はいじゃあ会議はそこまで。ここからはパーティーの時間だ! 生地を丸く広げてやるから、貴様たちで隙にトッピングして焼いてみろ」


 ハムだサラミだベーコンだのに、コーンやらトマトやら黒オリーブの実……うわぁお店が開けちゃうね! って、くらいに色々買ってある。ダンキってなんでも売ってるね。


 もちろんオリーブオイルとトマトソースも準備済み。この二点については、ちょっぴり奮発して聖王都ではなく、芸術の都ルネサヌスで調達した。


 聖王直轄領になっても、一日二日で美と食の都が様変わりするってこともないんだとさ。


 焚き火台そばのテーブルが、ピザ工房のオープンキッチンと化した。


 私が丸く伸ばした生地に、ドラミがソースをぺたぺた。レンガ作りでならした左官職人っぷりである。


 サキュルが欲望のままにトッピング。最初の一枚は水牛チーズにトマトソースのシンプルなチーズピザだ。


 ピザを窯に入れる巨大なシャモジ。ピザパドルっていうらしんだが、こいつは杉材を加工して切り出した元聖女の特注品だ。


 木って燃えるイメージがあるんだが、表面を焦がして磨いたことで難燃性が得られたりするんだそうな。


 パドルの先端には傾斜がついていて、フライ返しみたいに生地の下に滑り込めるようシャンシャンが独自の工夫をしていた。


 焼成開始。砂時計をひっくり返しつつも、最後は職人と化したシャンシャンが目視にてこんがり加減を調整。


 その間、足下でアヒルが「グワッグワ♪」と歌って踊る。特に、役には立っていない模様。


 最初の一枚が焼き上がり、仕上げにフレッシュバジルの葉をちらす。オリーブオイルを回しかけ。


 ソースの赤、チーズの白、バジルの緑。なんとも鮮やか。生地は耳までふっくらで、黒い斑紋状にところどころ焦げ目がついている。


 元聖女がダンキで買ったピザカッターで八等分に切り分けた。


「「「「いただきま~す」」」」「グワッグワ」


 ピザパーティー参加者一同、一斉に食す。


 美味い。


 専門店のクオリティだ。まあ、ちょっと生地がパンっぽくなりすぎてはいるものの、トマトソースとオリーブオイルだけで、十分ごちそう感がある。


 酸味は立ちすぎず、フレッシュさのあるトマトの味わいに、さっぱりとしながらもミルキーな水牛チーズが相まって、生地がしっかりと受け止めた。


 互いが互いを高めあう中、最後に乗せたバジルに行き着けば……香草の爽やかさが鼻に抜ける。


 シンプルにして絶妙。オリーブオイルが食材たちのまさしく潤滑油となり、気づけば私は自分の指を舐めていた。


 なに!? もう無い!? 無くなってしまったというのか!?


 もう一枚と思った時には、すでに手遅れ。


 食べ盛りな長女ズと妹ちゃんにアヒルが争奪戦を繰り広げた後だった。


 全員が私に視線で訴える。


「もっと焼きましょうメイヤさん!」

「ねえねえメイヤ! ワイン! 白ワインほしい!」

「お兄ちゃん! 人間って美味しいね!」


 おいやめなさいドラミちゃん。人間食べたみたいになってるでしょうに。


「グワッグワ!」

「キングちゃんも美味しいって! 認めてやるだって!」


 おいアヒル貴様おいアヒル。

 キングの名は伊達じゃ無いらしい。


 ま、本当ならコアにも食べさせてやりたいんだが、そもそもダンジョンコアだけに食事は摂らないというし……。


 今日の話をおもしろおかしく聞かせてやるとしよう。そして、感謝の言葉も。


 私は二枚目、三枚目とピザ生地を丸く平らに伸ばして広げた。


 次の一枚はドラミとサキュルの希望により「肉&肉&肉まみれ」だ。


 サラミにハムにベーコンにチョリソーに……なんかもう、肉の暴力。塩分気にしては食えぬ覚悟のピザになりそうだな。



 お昼のピザパーティーは大好評のもとに閉幕した。用意した食材もほぼほぼ使い切ることができ、全員の胃袋がピザでパンパンだ。


 しかし――


 唯一不満が出たのである。


「飲み物が水かコーヒーしかない」


 チーズにせよ肉にせよ、ピザに合わせるならばワイン等のアルコールが欲しいというのだ。


 ピザ作りに夢中で、すっかり失念していたな。

 安物でいいから、何本か白ワインを買ってくればよかった。


 まあ、長女ズに飲ませるのはどうかと思うんだが、聖王国も魔帝国も十五歳以上なら飲酒OKなんだとかで。


 ピンドラに至っては2200歳児である。


 とはいえ、こいつらに酒が入ったら……。


 悩ましいところだな。幸せを手に入れたら、もっと欲しくなるが問題も浮上する。


 で、なんとか手に入れようと創意工夫。


 こうして人類って発展していったんでしょうね。知らんけど。



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