◇月が綺麗ですね
「月が綺麗ですね」
満月の夜、唐突に一歌がそんなことを言い出した。
『月が綺麗ですね』は夏目漱石が英語の『I love you』をこの様に訳したことから昨今、日本的な愛の告白の言葉になっている。
もしかして一歌は、幼馴染以上恋人未満から本当の恋人になるためにそんな言葉を投げかけたのだろうか?
ならば、俺も答えなくてはいけない。そう決心した直後、一歌が笑いながら『まあ、私の方が綺麗だけどね』と発言した。
自分で言ったら台無しだろって内心思った。
◇九条家最初の作戦。銀行強盗
これは大学生になったばかりの頃。一歌と一緒に意味もなく銀行に居た時のお話。
「銀行強盗です。悲鳴を上げなさい!」
突然、ナイフを持った覆面の人々が銀行になだれ込んできた。しかしよく見てみると、覆面の人々が持っていた得物は引っ込むナイフだった。
なんなら、覆面を被っていたが九条家の使用人達に似ているような……
極め付けには、銀行強盗という緊急事態にも関わらず銀行員達や同じく客として来ていた人達は妙に落ち着いていた。
違和感しかない状況ではあったものの、万が一の事を考えると『一歌は俺が守らなきゃいけない』と思った。
抱いた違和感は一旦忘れて、俺は覆面達を真正面から叩き潰した。
反撃されるとは思ってなかったのだろう。覆面使用人達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「まさか使用人達を返り討ちにするなんて。後で彼らには治療費を支給しなきゃいけないわね……」
「なあ一歌。あれ、使用人達だったよな?」
「ち、違うの! 断じて貴方を吊り橋効果で私に精神的依存してほしいとか、そんなことは考えてないわ!」
「なら、一歌とは無関係か」
その後、銀行から外出したらズタボロになった九条家の使用人達が地面に倒れていた。何かあったのだろうか?