俺と一歌は幼馴染である。今の関係は恋人とも言う。
実は一歌には不二香(ふじか)という高校生の妹がいる。幼馴染ということで彼女とも何回か会ったことがあるのだが、その子が俺のバイト先にやって来ていた。
変装バレバレな使用人達が睨みを効かしてる中、不二香が俺に話しかけてくる。
「わたくしを鍛えてくださいませ!」
◇
「スポーツジムに来た時は何事かと思ったけど、指導をしてほしいってことだったんだね」
俺はスポーツジムのインストラクターのバイトをしている。仕事内容はジム利用者への指導や、トレーニングプログラムの作成など。
「貴方の強さは使用人達の証言で知っております」
「えっ? 俺、使用人達の誰かと喧嘩したっけ?」
「こっちのお話ですわ。話を戻しますと、貴方の指導でわたくしを鍛えてほしいですの!」
「俺に? まあ、いいけど」
特に断る理由は無い。筋肉を鍛える人間は誰でもウェルカムだ。
「それで、どんな目的で来たの? ダイエット?」
その問いに不二香は、黒髪ツインテールをゆっさゆっさとなびかせながら、首を横に振って否定した。
「違いますわ! わたくしには倒したいお相手がいますの! その方をぶちのめしてやりたいのですわ!」
「そいつはグレートだ。けど君は初心者だから、最初は自分のペースを見つけていこう」
こうして、不二香のトレーニングに付き合うこととなった。
それが一週間程度続いた頃だろうか。俺は何故か一歌に呼び出しを食らっていた。
「久しぶりね。朝陽くん」
一歌は張り付けた笑顔でそう言う。これは、相当怒っている……?
「最近、妹と一緒にトレーニングしてるそうね」
「……そりゃあまあ」
「恋人である私を差し置いて、他の女性。しかも私の妹とトレーニングに励むなんて。不誠実だとおもうの」
「ええっと……」
「釈明をしてくれるのかしら?」
「……最初から順を追って説明するよ」
◇
「まあ、そういうことだったの。私、勘違いしていたわ。てっきり、朝陽くんが浮気をしているのかと」
「彼女曰く倒したい人がいるらしい。俺はその手伝いをしてるだけだよ」
「それはお疲れだったわね。よしよし」
一歌はそう言うと自然な流れで俺の頭を撫で始める。ひとまず、彼女の怒りが落ち着いたようでよかったと内心安堵した。