僕は龍宮院海斗。先日、車の実技試験を合格して、筆記試験へとコマを進めた男だ。
某有名どころの大学一学生である。
「妹がお世話になっているわ。私は九条一歌。不二香の姉になるわ」
そして偶然にも、不二香さんの姉さんと同じタイミングで筆記試験を受けることになった。
◇
ケアレスミスを防ぐため、試験直前になっても教科書で復習をしていたら、一歌さんが僕の正面の席に座ってこんなことを言い出した。
「直前に勉強してもあんまり効果は期待できないと思うの」
「別によくないっすか? それより一歌さんこそ勉強しなくて大丈夫なのですか?」
「教科書持って来てないわ」
「交通ルールとか覚えてきたんすか?」
「もちろん。抜かりはないわ」
「本当っすか? それじゃなにか交通ルール言ってみてください」
「……基本的に車は右側通行」
「やっぱり勉強して来てないですよね?」
◇
「勉強してないじゃないっすか。僕知らないっすからね?」
「あんまり私をみくびらないでほしいわね。こう見えて私は勉強してきているわ。80点は確実に取れる自信あるの!」
「……筆記試験90点以上取らなきゃいけないんすよ?」
◇
「そうこうしてるうちに試験の時間かぁ」
「ねえ貴方、ちょっと頼みごとがあるのだけど聞いてもらってもいいかしら?」
「どうしたんすか?」
「さっきの教科書、貸してくれないかしら……」
「はい?」
「今になって不安になってきたの……勉強しなきゃ……」
「いや、遅くないっすか? 試験官も来ちゃってますし」
「まだ、間に合うはずよ! しのごの言わず貸してちょうだい!」
「いや、もう無理っすね。潔く諦めてください」
数分後、試験官が『今から試験を始めます』と言ったので一歌さんはほとんど教科書を見ることは出来なかった。
◇
「学科試験の結果が出ました。前の電子掲示板を見てください。番号があった人は合格者なので、教室に残ってください」
僕の番号は161番。157、159、160……
161。あった!
「よかった! 無事に合格だ! 一歌さんはどうでした?」
その問いに、一歌さんは親指を立ててドヤ顔で答えた。
「おっ、合格したんすね」
と思ったら、一歌さんはドヤ顔のまま教室を出て行った。不合格だったんだあの人。