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おでかけ

「朝陽くん! ついにとったわよ! 運転免許証!」


「よかったな。基本知識を君に叩き込んだ甲斐あったよ」


 俺の彼女、九条一歌がついに運転免許を取った。


「免許も取ったわけだし、ドライブしましょう!」


「乗った! それじゃあレンタカー借りよう」


「それにはおよびませんわお二人とも!」


「不二香!」


「お姉様の運転免許取得祝いにお爺様が車を買い与えてくださったのですわ!」


「そいつはグレートだ。そうだ、せっかくだし、君も乗ってく? 試運転兼ねてだから近場になりそうだけど」


「乗っかりますわ!」


 こうして、不二香を加えた俺たち三人は、車を発進させたのだった。



        ◇



 乗り心地を確かめるためまずは、俺が運転することにした。ちょっと車体がデカくて、運転は難しめな印象だった。


 ついでに、バックミラーを確認すると、家政婦長を始めとした使用人達が車数台でついてきている。


 相変わらずの警護、ご苦労様ですと言いたい。



        ◇



「そろそろ運転変わるわよ!」


「大丈夫ですの? 運転変わって。お姉様は何回試験落ちてますの。怖いですわ!」


「うーん……そうだなぁ。万が一は使用人達に頼ることにしよう」


「私をみくびってもらっちゃ困るわ! さあ、発進よ!」



        ◇



「最初、どうなることかと思ってましたが、案外普通に運転できてますわね」


「当然よ! 私、こう見えて実技は完璧だったのだから」


「あっ、おい一歌! 車線変更しないと!」


「えっ?」


「この道、インターチェンジ行きだよ!?」


 車は高速道路に入ってしまった。先程までの余裕はどこに行ったのか、途端にオロオロし始める一歌。


「えっいや……私高速は……どうしましょう!? 引き返さなきゃ!」


「ダメだ。後戻りは出来ないな。後ろから車来てるし。そのまま行ってくれ!」


 使用人達の車が邪魔すぎると悪態をつく胸の内。


「そんな……どうしましょう朝陽くん! 私これが初めての運転なのに……」


 この状況、使用人達は頼れない。なら、俺が頑張るしかない。


「落ち着け。高速研修は一回やっただろ? それを思い出して安全運転でいこう」


「そ、そんなぁ……!?」


「数キロ先にパーキングエリアがあるからそこで俺に運転変わろう」


「わっ、わかったわ。とりあえず合流するわよ……!」


「後方OK!」


 合流は無事に成功したが、今度はトラック数台に囲まれてしまった。


「ヒィィィィ! トラックの圧が怖いし、車がすごいスピードで走ってるわ!? これ速度違反じゃないの!?」


「残念ながら規定速度内だよ」


 使用人達もトラックのせいで離されてしまった。とにかく一歌に頑張ってもらうしかない。


「あっ、お姉様! 前にパーキングエリアありますわ! そっち入ってくださいまし!」


「えっ!? どこよ!? そっちってどっちっ!?」


 一歌がテンパってるうちにパーキングエリアの入り口を通り過ぎてしまった。


「ど、どうしましょう……入ることができなかったわ……」


「大丈夫、大丈夫! 安全運転はできてるから! このペースで次の出口へ行こう!」


「ハハっ、わ、わかったわ……」


 さっきからトラックが後方で圧をかけてくる。煽り運転だろこれ! 一歌は初心者なんだぞ、初心者マークつけてるし……付けてるよな?


「ちなみにこの車、初心者マーク付けてるよな?」


「なんで今になってそんなことを言うのよ!? 不二香に聞いてちょうだい!」


「大丈夫ですお義兄様。ちゃんと初心者マークはお姉様が乗車時点でつけましたわ!」


「じゃあさっきから煽り運転してるトラックなに!? 初心者いじめかこの野郎!」


「ヒィィィィ! トラックが前に出てきて、蛇行運転始めたわよ!? ど、どうすれば……」


「運転代わりたい。運転代わってやりたいよぉ! いや待て、数キロ先出口だ! そこまで頑張れ!」


「ヒィィィィ! どうしてこんな目に!?」



        ◇



 インターチェンジで無事に降りることができ、俺たちは出口近くのコンビニで生還を分かち合っていた。


「……よかったわ。全員無事で、よかったぁぁぁぁ!」


「父上、母上、お爺様、お婆様! わたくし達生きておりますわ~!」


「本当によかった! 一歌、お疲れ様!」



        ◇



「にしても随分へんぴな場所に降りたな。田舎じゃん。使用人達ともはぐれてしまったし」


 周り見渡しても、山、山、田畑、田畑と看板。


 看板? 内容を見てみると直進したら水族館にいけるよというものだった。


「こんな場所に水族館あったのか……」


 これ、無人島みたいに九条家が仕組んできたりしてのだろうか? 否、そうだったなら使用人達が影に潜んでるはず。つまりこの水族館は、安全なはずだ。


「せっかくだし二人とも、水族館行かないか?」




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