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第4話

 中学二年になって、とうとう祖父は決意しました。まずは、あの祠が何を祀っていたのかを調べてみようと。おそらく、そこまでは知っても大丈夫だし、そこから始めないと何も進まないだろうと彼は考えたのです。それに近づくことへの不安があっても、それでも祖父は動きました。


 中学時代の祖父は、かつて少年たちが集められたお寺を訪ねました。そこには、かつて会った住職の姿がありました。住職は当時と変わらない様子で、祖父のことも覚えていました。彼は祖父がまだ生きていることに安堵しているようだった。と、祖父は語ります。祖父のことを心配している大人の存在に、彼も勇気付けられたと言います。


 祖父は住職に、あの祠は何を祀っているものなのかと訪ねました。住職は「君にとっては他人事ではないから」と、祖父がそれを、知りたがっているのならばと答えてくれました。住職曰く、こういう話なのだそうです。


 ずっと昔、その村には日照りの続く年がありました。作物をまともに収穫できず、皆が飢えていたといいます。このままでは村が滅ぶ。それほどの状況だったそうです。当時、村には小さな神社があったらしいです。祖父が子供の頃には、もう無くなっていたその神社には、古い神様が祀られていました。その神様へと、村の人々は贄を差し出したのです。収穫を願い、村の老人や子どもたちを複数人選び、神への捧げ物としました。それは口べらしも兼ねていたのでしょう。


 生け贄を差し出した効果か、偶然か、翌年の村では豊作に恵まれたようです。村人たちは神様に感謝しました。しかし、その信仰も時の移ろいと共に薄れていきました。やがて神社は無くなり、祠だけが残されました。人々は、神様の存在を忘れかけていました。そんな時、少年たちが祠を破壊したのです。それから、少年たちの回りで怪現象が起こるようになったのです。


 時の流れと共に、自然と無くなっていた縁が再び結ばれたのだろうと、住職が話します。その縁とは、何者との縁なのかと、祖父は聞きました。住職は「神様との縁だろう」と答えました。それは今の祖父もはっきりと覚えているそうです。


 神様との縁ができた者たちから、再び忘れられることを、その神様は恐れているんじゃないかと住職は考えているようでした。確証は持てないが、そうなのではないかと、住職は話していました。


 寺を後にして、祖父はこれからどうしようかと、考えました。神様が、忘れられることを恐れているのだとすれば、どう動くべきなのか。おそらく最も効果的で、唯一できることは、祠へお参りにいくことなのではないかと、祖父は考えたのです。名前も忘れられた古い神への信仰心を持ち続ける。それが唯一の助かる道だと、祖父は思いました。


 その後も祖父は祠について色々と調べてみたそうです。祖父の考えが変わることはありませんでした。ほとんど情報が出てくることはなかったですし、新たに出てきた情報も、住職の話と、ほとんど被っていたのです。


 祖父は、あの日集まった中で、彼以外に唯一残った少年を、祠へ参るように誘いました。ですがその少年は首を縦には振りませんでした。結局、祖父は一人で祠に向かい、一人でお参りをしたそうです。今も、祖父は毎年夏になると、あの村にある祠へのお参りだけは欠かさないそうです。


 唯一残っていた友人が失踪したのは、祖父が中学三年の春だったといいます。春頃にその友人らしき人物が見かけられたという話もありましたが、結局その友人が家に帰ってくることはありませんでした。


 それからは、祖父は毎年、夏になると祠へお参りに行き、穏やかな日々を過ごしていきました。時々、遠くにくねくねと動く人影のようなものを見ることはあったと言いますが、それくらいでした。


 祖父はお寺の住職にも、時々会いに行くように、なっていました。時々会いに行っては近況を報告していたのだとか。そして時は過ぎていきます。安心のできる日々が、これからも続いていくのだろうと祖父は考えていたようです。


 祖父が家庭を持つ頃には、住職もすっかり年老いて、少しボケも出始めていたといいます。年老いた住職は、自分がものを忘れていくことを恐れていたように見えたと、祖父は語ります。祖父自身、ものを忘れていくのは恐ろしいのだそうです。


 ある日、祖父は老人ホームへ住職を訪ねました。いえ、その頃は元住職ですが、ここでは住職と書きます。


 住職の部屋を訪ねた祖父は、恐ろしいものを見ました。それは血の涙を流しながら、大きく目を見開いた住職の遺体でした。あきらかに異常な死に方。住職が見ていたその場所に、それは来ていたのではないかと、祖父は思ったのです。それとは、神様のことです。


 きっと、自分もいつか、同じような死に方をするのだろうと祖父は思ったそうです。そう思って、助かるためにはどうすれば良いのかと、祖父は考えたそうです。祖父は、ずっと考えて、悩んでいました。いつか死ぬのは覚悟ができても、その神様に殺されることは恐ろしかったのです。

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