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第12話 やめてほしい時のギザ歯は最強ですケド!

 いきなりプレゼントという奇襲は大成功。この奇襲成功には桓騎も歓喜キングダム。さて、媧燐様、もとい、晶様のご様子はというと、さっきから色んな角度でネックレスをご覧になられております。

 嬉しそうなのは何よりだけど、なんか恥ずかしいからヤメテ!


「つ、付けていい?」

「え? 勿論、その為に今渡したようなもんだす」


 もんだす?

 あれだよ、ポケットなモンスターの新作だよ。

 橙ダイヤモンドと、スイスイスイートテンダイヤモンドの二種類なんだよ。

 橙がダサい? スイスイスイートテンはカラーじゃない? ダイヤモンドはもう出てる?

 うっせえうっせえうっせえな。

 噛んだんだよ。

 来馬も笑ってるよ。

 もういいよ。笑ってる暇あればつけろよ。ギザ歯かわいいなちくしょう。

 笑うな、つけろ。ギザ歯かわいいなちくしょう。

 もういい俺がつける! ギザ歯かわいいなちくしょう。


 と、俺が来馬からネックレスをひったくる。


「笑うな。つけるぞ」


 というと、来馬は、目を泳がせたあと、背を向け、髪を避けてくれる。



 …………。



 あー。ごめーん。これ、俺やめていいっすか。

 なんかーふんわりと髪のいい香りがしますしー。

 首筋ってなーんでこんなにドキドキするんでしょー。


 来馬の細く白い首が目の前にある。


 っていうか! これ、腕を前に回さねばならないのよ!

 レベル高くない!?

 まだ、俺初彼女、初デート、しかも、デート序盤のレベル1勇者よ!

 いきなりボス戦じゃないのよ! なんだこの無理ゲー設定!

 責任者出て来い。はい、私ですが。責任者の小角です。私がサプライズしたいが故にいきなりボス戦にしてしまいました。大変申し訳ございませんでした。


 まあ、よく見れば来馬も耳から何から真っ赤になってるので、落ち着き始めた。

 手を回し、ネックレスをつけようとする。

 真っ赤になって熱くなってるんだろうな。ちょっと来馬の周りだけあったかい。

 まあ、多分、向こうも同じこと考えてるだろうけど。

 あー、そういう意味では向かい合ってなくてよかったー。

 向こうも同じこと考えてるだろうけど!

 付け終わると、二人とも暫く、相手の方をみることなくクールタイム。

 いきなり大技使い過ぎました。


 そして、示し合わせたように向かい合うと、来馬がギザ歯をチラ見せしてくる。

 ニヤつくのを我慢しているのだろう。

 やめて! 何その幸せチラリズム!


 こほん。落ち着け俺、素数を数えろ。素数ってなんぞ。


 さーて、今日の来馬さんの服装は、白系のワンピースに、カーディガン? それとツバ広帽子、という非常に可愛らしい恰好で、色合い的にも、薄いシルバーと真珠のネックレスがよく似合う、気がする。

そして、今日の俺は一味違う。

 なんてったって美容院の菩薩様(※来馬の従姉妹、大原莉奈)から徹底的に仕込まれたのだ。


『いい、おづのっち? デート中はことあるごとに?』

『ラッキースケベ』

『そんなとらぶるは起きません。ふざけてると五等分にするよ、物理的に』

『物理的に!? それただのバラバラ殺人です! すみません! ほ、褒める!』

『そう! どんな小さなことでも、良いと思ったら褒める! 特に、見た目は大事よ! はい、きばっちが素敵な格好しています! なんていうの?』

『唆るぜ、これは』

『その台詞は、うん、そうだね、キミを消そう』

『霊長類最強の美容師!』

『もういい! とにかく、褒めること! いいわね!』


 以上、回想。

 さて、修行の成果を見せてやるぜ!


「似合ってるぜ」

「しね」


 はいはい、ひらがなのしねは本心から死んでほしいわけじゃない『照れ隠しね』だってこと俺は知っておりますしねー!

 また、モデル様の美白肌が赤くなっていっておりますわよ。

 好機!

 俺はここぞとばかりに褒めちぎる!


「いや~、ほんと似合う。かわいいな~、ウチの彼女は」

「やめろよ!」


 来馬が強く睨みつけてくるが、それもまたある意味ご褒美。

 ギザ歯彼女の睨み、最高です!

 が、あまりにも俺が喜んでいるので睨んでも意味がないことを悟ったのか、すぐに声が小さくなり、ちょっとだけ振り向き、


「やめろよぅ……」


 ぐっはあああ! ふすとに999のダメージ!

 もうやめて! とっくにふすとのライフはゼロよ!


 なんということでしょう、強きギザ歯女子のかっこいい「やめろよ」(ビフォー)が照れてるギザ歯女子によって「ぅ……」がつけられただけでちょうかわいい「やめろよぅ……」(アフター)に生まれ変わったのです。


 伏せて座り込んで顔を隠す彼女は勿論かわいいですが、このままにしておくわけには行きません。匠の技が光ります。


「あー、ごめん。んで、先にもう一回ごめん。次でラストにするから。さっきまではふざけてたけど、ほんと似合ってるから、それはちゃんと伝えとく」


 すると、彼女は一瞬ぴくりと身体を跳ねさせると、すくっと立ち上がり、振り返って、


「ヒヒヒ、ありがと」


 やめてー! ギザ歯女子のヒヒヒは尊死しちゃうから、や、め、て……!


 そして、俺は数千年の眠りについた(大嘘)


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