「小角、これありがとう! 面白かった!」
俺が漫研から持ち出した某五つ子漫画(松でなく、花)を天生が返してきた。
天生は、俺の幼馴染みで、高一の時、俺から告白しフラれ、かなりバカにされた。
その後、来馬から天生を見返す『ざまぁ』することを提案され、来馬と一緒に過ごすことが増え、仲良くなり、天生に『ざまぁ』したのち、付き合うことになった。
なので、天生はある意味、俺達のキューピッドと言える。
そんな天生は俺達に『ざまぁ』(?)された翌日、ばっさりショートになった。
「スッキリしたかった」とどこかの俺を思わせるような発言をした天生は、俺と来馬と仲良くなりたい、自分が変わったことを見て欲しい、と言ってきた。
俺達が変わった途端、手の平返したと陰口叩く奴らもいたみたいだが、天生はそれも受け止めた上で、俺達に関わろうとしてた。
そんな幼馴染みの変化は俺にとってうれしいものではあるが……
「ねえ、小角! 週末来馬と遊園地デートの計画は立てた? いいなあ~、小角と遊園地。ねえ、小角って二等分出来ない?」
出来ねえよ。無茶言うな。
あと、学校アイドルスマイルかますな。眩しいよ。
天生は、キラキラした顔で俺に積極的に絡んできた。
昔みたいな仲良い幼馴染みに戻りたいとのことでそれだけならいいんだけど……
「おい、淫乱天使。小角誘惑してんじゃねえよ」
来馬さんがすっごく機嫌悪くなるから勘弁して欲しい。
とはいえ、天生自身はそのへん弁えてるんじゃないかと思う。
来馬がいないところではこんな風に絡んでこないし、積極的な割には距離はちゃんととってるし、触ってきたりはしない。
多分、来馬で遊んでるんだ。
そして、遊ばれた来馬さんはふがふがしてる。
「え~、なんで誘惑しちゃダメなの?」
分かって聞く。絶対遊んでる。
来馬は顔を真っ赤にして、俺の腕を掴み、引き寄せる。
うむ、やわらかし。
そんな俺の心知らず、来馬は、天生の挑発に乗りまくる。
「き、決まってるだろ。アタシの彼氏だからだよ。な?」
「そ、そうでしゅぅう!」
あ、危うく目がハートになるところだった。
「な?」と言った来馬の顔はギザ歯が眩しく、ちょうかっこよかった。尊死をギリで踏みとどまった。
「じゃあ、別れたら、誘惑していいよね?」
天生が、首をこてんと傾け、指を頬に添え、アザトカワイイ仕草で聞いてくる。はい、あからさまな挑発。
しかし、最近の来馬さんは余裕ないからすぐのっかる。
「ダメに決まってんだろ! コラア……!」
きゃーと言いながら、天生が去っていく。
残されたのは、怒りの化身来馬様と憐れな子羊小角である。
憐れな子羊は身の危険を察知し、サンクチュアリこと男子トイレに行こうとすると、引っ張られる感覚。
振り替えると、来馬が片方の手で制服の裾を摘まんで、もう片方の手は胸の前でギュッと握って、こっちを見てくる。
「だ、ダメだからな。アタシの彼氏なんだから」
はい、尊死。
かっこよくても尊死、かわいくても尊死。
一人で二人分尊し。
ギザ歯彼女の前では、命がいくらあっても足りぬ。