【来馬晶視点】
「小角、これありがとう! 面白かった!」
教室の前の方、天生が小角にマンガか何かを返していた。
天生はある意味、アタシ達のキューピッドと言えるし、今までの行いも反省したみたいでばっさりショートになっていたし、アタシと小角と仲良くなりたい、自分が変わったことを見て欲しい、と言ってきたし、まあ、小角は天生に対して甘いし、アタシも引きずるのもめんどくさい。なので、まあ、許してやってもい。許してやってもいいが……
「ねえ、小角! 週末来馬と遊園地デートの計画は立てた? いいなあ~、小角と遊園地。ねえ、小角って二等分出来ない?」
出来ねえよ。無茶言うな。
あと、小角に学校アイドルスマイルかますな。かますな。
天生は、キラキラした顔で小角に積極的に絡んでいる。
腹が立つが、マジであの女は顔は良い、あと、胸がある。もぎとりてえ。
アタシは思わず席を立ち、2人に近づく。
「おい、淫乱天使。小角誘惑してんじゃねえよ」
小角が目を線にして微笑を浮かべている。降参の表情だ。
天生はにやにやしてる。
分かってる。
こいつはアタシで遊んでるんだ。
分かってはいるが、スルーは出来ない。
「え~、なんで誘惑しちゃダメなの?」
分かって聞く。絶対遊んでる。
アタシは覚悟を決め、小角の腕を掴み、引き寄せる。
小角の鍛えた身体が当たってめっちゃ熱い。ゴツゴツしてるな。いいな。
じゃなくて!
「き、決まってるだろ。アタシの彼氏だからだよ。な?」
「そ、そうでしゅぅう!」
小角がエロマンガみたいにふにゃふにゃな台詞を吐く。どした?
アタシの身体で興奮したのか?! う、嬉しいけど! しばく! あとでしばく!
「じゃあ、別れたら、誘惑していいよね?」
あ、あ、あ、あほの天生が、首をこてんと傾け、指を頬に添え、アザトカワイイ仕草で聞いてくる。てんめええええええええええええ!
「ダメに決まってんだろ! コラア……!」
きゃーと言いながら、天生が去っていく。
腹が立つ。ちょっと天生とこういうやりとりが出来て嬉しいことも腹が立つ!
目を線にして微笑を浮かべる小角がどこかに行こうとする、待て。
分かってる。小角は大丈夫ってことはわかってる。
でも、伝えておきたい。
ああ、こんなに不安になるのか! すげーな! 世のカップルは! 良く耐えてるよ!
小角の腕をつかもうとするが、だめだ! 今、めっちゃ熱い! 絶対手も熱い!
熱いのがばれる!
アタシはそでをつまんで、次に伝える言葉の為に深呼吸。すーはー。
小角が振り返る。いつも通りやさしい目で、『なんでも話してくれ』って目で。
だから、伝えるな。めっちゃ恥ずかしいけど!
「だ、ダメだからな。アタシの彼氏なんだから」
「二等分になっても五倍になっても、どっちもどれもアタシのな」
ちらりと小角を見ると、視界から消えている。
下から気配。
下を見ると、小角が目を線にして、死んでいた。
前から気配。
前を見ると教室の入口で天生が「熱い熱い」と笑ってた。
アイツ、マジでいつか泣かすからな。