観覧車の天辺まで来た。
沈黙。
なんだ何を言えばいい?
昨日、ショッピングセンターの小さい観覧車に莉奈さんに連れていかれて練習させられただろう。
なんだ、何を話した? なんて言えって言われた?
出てこねえー!
アタシが唸ってると吹き出す音が聞こえた。
「あ?」
なんだコイツ、アタシが今必死こいて空気変えようとしてるのに。
「ありがとな」
小角が笑って言う。
「お前がいなかったら、俺ダメになってたわ」
「あ……うん」
……
いや! 「あ……うん」ってなんだよ、アタシー!
「あのさ、たぶん、俺、これからも、晶がいないとダメだから。いや、たぶんじゃないな。晶がいないと俺ダメだから。一緒にいれくれな?」
「あ……うん」
だからあ!
「これ」
小角がポケットから何か出す。
指輪?
「あー、重かったらごめん。バイト代入ったから、テンションあがっちゃって」
「でも、入り口で、ネックレス……」
「いや、なんかサプライズしたかったんだけど、ラストでプレゼントってテンプレかなって、そこは意外性の男小角さんとしては、二段構えならば驚くのではと」
「お、驚いた」
「あー、ちょっとやりすぎたよな。いらないならい」
「いる! めっちゃいる!」
小角の言葉を遮って叫ぶ。
小角は、少し笑って渡そうとする。
「あ、あの、折角の指輪、なので、嵌めてもらえないでしょう、か。あ、アタシにも、憧れというのは、ありまして……」
小角に緊張が走る。
さっきまで笑ってたのに。
震える指輪を持つ手と、震える指輪を待つ手。
なんとか入った瞬間。
揺れたのか躓いたのか小角が倒れこんでアタシに抱きつく形になる。
回した手から指輪が見えて、
小角が傍にいて、
幸せで、
アタシは思いっきり泣いた。
「ああああああ……」
「ご、ごめん! 痛かったか?」
「ちがうぅう、うれしくて、しあわせすぎて、泣いたぁああ」
その後ずっと小角は、アタシが泣き止むまで手を繋いでくれた。
観覧車を降りた後も、トイレでアタシが化粧直しに行くまでずっと繋いでくれた。
入り口近くで従業員のお姉さんに写真を頼んだ。
画面には、滅茶苦茶照れてそっぽ向いてる中身イケメンと、
目が腫れまくって大きくギザ歯見せて笑ってる女がいた。
「じゃ、帰るか」
あ。
思い出した。
観覧車で言おうと思ってたこと。
「伏人」
アタシのギザ歯を出させまくった男が振り返る。
「だいすき」
アタシはそのまま抜き去って、思いっきりギザ歯を月に見せつけた。