ケインたちは、瀟洒なコテージへと案内される。
女性陣は室内でくつろぐようだが、ケインはまず長旅で活躍してくれた白ロバのヒーホーの世話をしてやることにした。
庭にある小さな馬小屋につないで、飼い葉の代わりにもなるという精霊樹の葉っぱを採ってきて食べさせてみたのだが。
「どうした、ヒーホー」
「ヒーホー! ヒーホー!」
葉っぱを食べたヒーホーは、ものすごい興奮状態で今にも躍り上がらんばかりだ。
「あ、そうか。美味いのか?」
「ヒーホー!」
無我夢中に食べている。
そんなに美味そうに食べられると、『薬草狩り』のケインとしても職業的な興味がそそられる。
人が食べても大丈夫そうなので、一枚口に
「ふむ、これは美味い」
摘みたての瑞々しい葉っぱは、シャリシャリした爽やかな歯ごたえで、噛みしめると口の中にほのかな甘みが広がる。
清らかな聖水で育ってるせいだろうか。
野草を食べ慣れてるケインでも、こんなに美味しい葉っぱは食べたことがない。
さすがは、エルフの聖地に生えてる精霊樹の葉だけのことはある。
ヒーホーの口が肥えてしまわないか、心配になるほどだ。
「ヒーホー」
「でも美味いよなあ」
これは止まらない、もう一枚……。
ケインが馬小屋の前に座り込んで、ヒーホーと一緒に精霊樹の葉っぱをむしゃむしゃやっていた頃。
コテージの中では、女性陣が盛り上がっていた。
「せっかくだから、泳ぎに行きましょうよ!」
「アナ姫は元気やな。うちはもうちょっと、ローリエさんに精霊魔術の話について聞きたいんやけど」
さっきからマヤに根掘り葉掘り精霊魔術の理論について聞かれ。
そんなの細かく知らないよーと
「い、いいですね! 水着も各サイズ取りそろえてますよー!」
このコテージは聖水浴場を兼ねているので、水着はたくさん用意してある。
「ハイエルフの水着か。そっちも珍しいもんやな」
マヤは、そっちにも興味を引かれる。
今でこそ人族の王国でもよく見られる水着だが、もともとはハイエルフが作ったものだと伝えられている。
今ではだいぶ衰退したとはいえ、エルフ一万年ともいわれる歴史と文化は伊達ではない。
「これはビキニって水着なんですよー」
「ほお、また色っぽい水着やな」
神秘的な種族と思われているハイエルフだが、意外と好みが俗っぽい。
王国ではワンピースの水着が主流なのだが、ローリエが持ってきた水着は、トップスとボトムスがわかれたツーピースのきわどい水着が多かった。
「大人っぽいのがいいから、私はこの一番セクシーなビキニにするわ!」
紐みたいなマイクロビキニを、貧乳のアナ姫が身につけているのを想像して、似合わないことこの上ないとマヤは思わず失笑する。
「アナ姫は、大人しくこっちのフリルの付いた可愛いワンピースにしといたほうがええで」
「なんでよ!」
「ケインのおっさんは、セクシーより可愛いほうが好みやと思うで」
「そ、そう……」
ケインと一言いうと、アナ姫はなんでも言うことを聞くので便利だ。
「あるじの好みがそうなら、我もそれを着たほうがいいか?」
「テトラは逆に、ビキニ以外似合わんやろ」
「マヤ、私は……?」
「セフィリアは何でも似合うやろ。セクシーでありながら上品さもある、こっちのパレオ付きとかどうや」
いつの間にか、マヤが女性陣の水着のコーディネート役になっている。
「まあ、うちも楽しいから構わへんけどな」
養父以外の男に全く興味がなく、美少女が大好きなマヤとしては、色んなタイプの美少女に好みの水着を合わせるのは楽しい作業だった。
女性陣は、そんな感じでキャッキャ言い合いながら水着に着替え終えて、コテージの外に出てくる。
驚いたのはケインだ。
「み、みんなどうしたんだ。下着で外に出てくるなんて!」
ケインが驚いて目を伏せるのを、みんなは不思議そうに囲んでいる。
「あーそうか、ケインさんは水着も知らんかったか」
「水着?」
マヤが慌てて説明する。
「海や川で泳ぐための服なんや。下着とちゃうから、別に見られてもぜんぜん平気なんやで」
「そ、そうなのか」
マヤにそう言われても、ケインにはボディーラインがしっかり見えてしまう水着と、下着の違いがよくわからない。
全く変わらないように見えるのに、なぜ水着だったら恥ずかしくなくなるのだろうか。不思議である。
ケインは、妙齢のマヤのこともあまり直視できないし、セフィリアが特にマズい。
居心地悪そうに、目をそむけている。
「ど、どうかしら。別に泳ぐためだし、ケインに見せるために着てるわけじゃないけど!」
そんなことを言いながら、ケインに水着を見せつけるアナ姫。
水着を見慣れないケインにとっては、とても安心できるプロポーションだった。
「アナストレアさんに、よく似合ってるんじゃないかな」
そうケインに褒められて、アナ姫はでへっと相好を崩す。
「へー、ケインさんやるやんか」
アナ姫の機嫌が悪くなると困るので、褒めろとケインに耳打ちしようとしていたマヤだが。
ケインが意外と女心をわかった対応をしたので感心する。
「あ、あるじ、我はどうだ!」
「お父さん私はー!」
テトラと、ノワに囲まれて、ケインは二人も褒める。
「うん、みんなよく似合ってるよ」
みんな満足そうだが、褒め方がワンパターンなのが玉に瑕だと、マヤは思った。
自分はケインにどう見えているのだろうかと、ちょっと気になったりもした。
「ケインさん。私の水着はどうですかー」
ローリエが、大きな胸に精霊樹の葉っぱを貼り付けただけで出てきたので、ケインは度肝を抜かれる。
やっぱり着痩せするタイプだったかーとか、言っている場合ではない。
「マヤさん、これも水着なの!?」
「え、いやこれは、えっと……」
いくらなんでも、葉っぱだけはないとマヤも思う。
そもそもが、水着の機能をしてない。
ローリエがプルンプルン胸を揺らしているから、今にも葉っぱがペロッと取れてしまいそうではないか。
しかし、相手は一万年の歴史を持つハイエルフなので、こういうデザインの水着もあるかもしれないとマヤが迷っていると、シルヴィアが来てローリエを叱った。
「ローリエ! あなたはまたふざけて……ケインは真に受けちゃうんだから、からかわないの!」
「あら、お姉様。これは立派なハイエルフの文化ですよ」
「文化はいいから、さっさとまともな水着に着替えてきなさい!」
「はーい」
姉のシルヴィアに本気で怒られて、ローリエは渋々とコテージに帰っていくのであった。
ちなみに、ハイエルフに葉っぱの水着などは当然ながら存在しない。
さっきのは、感情の起伏に乏しく恋愛関係になりにくいハイエルフが、男を誘惑するための伝統衣装の一つであったのだが。
話がややこしくなるだけなので、シルヴィアは説明しないことにした。