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第165話「親、襲来」

 アルビオン海洋王国の野望を打ち砕き、北海全域をアルテナ同盟に組み入れることで海を平和にしたケインであったが、新たなる危機を迎えていた。


「善者ケイン殿の私生活について、詳しく聞かせてもらうという約束だったからな」

「その話、まだ終わってなかったんですか」


 オーディア教会の最高司祭レギウスは、アルビオンとの停戦条約と各国首脳による海の平和の誓いを見届けた後。

 なぜか、そのままぞろぞろと高位聖職者を引き連れてケインの自宅に来襲したのだ。


 それだけならまだしも、なぜか剣姫アナストレアの父、アルミリオン大公爵クロヴィスと、母でもあり王妹でもある大公爵夫人オリヴィアまでやってきた。

 そのお付のものまでいるから、ケインの屋敷にとても入りきれない。


 なんでアウストリア王国の偉い人間は、頻繁にケインのうちに来たがるのか。

 こんな賓客を呼ぶ用意などしてないケインも困惑しきりだ。


「聖下! このふらちな男は、聖女様だけではなく、うちの娘もたぶらかそうとしているのですぞ!」

「なんと!」


 アナ姫の父、クロヴィスはここぞとばかりに告げ口する。

 この赤髭の烈将は、レギウスがケインを問い詰めると聞いて、矢も盾もたまらずやってきたのだ。


「ウハハハ、ぜひとも懲らしめてやってください!」


 立派な赤髭を揺らし、得意満面で笑うクロヴィス。

 ケインめ、今日こそ年貢の納め時だぞと、息巻いている。


 隣でオリヴィアが「また、うちの旦那がごめんなさいね」と、ペコリと頭を下げている。

 ケインが、これをどうしようかと思ったその時、バタンと扉を開いてシスターシルヴィアが飛び込んできた。


「レギウス聖下! ケインは私の息子です。これまでのことなら、私からお話しますわ!」

「おお、シスターシルヴィアか。善者ケインは、この街の孤児院出身であるとか。そなたの話も聞かねば公平ではないな」


「聖下に対して恐れ多いとは思いますが、可愛い息子のこととなれば、黙ってはおられません。母である私が、ケインのことを一番良く知ってます」


 剣姫アナストレアの父親クロヴィスと、聖女セフィリアの父親レギウスに対抗して、ケインの母親であるシスターシルヴィアが弁護人として登場。


「一体、どうなるんだ……」


 なんなんだ、この三者面談バトルはと、ケインはもう頭を抱えるしかなかった。


     ※※※


 シスターシルヴィアが、滔々と語るこれまでのケインの善行の物語に、最高司祭レギオンは激しく号泣した。


「ううっ、そうであったのか!」

「そうです。これまでケインは、二十年以上もの長きにわたり、この街の人々を助け、教会に尽くしてきました」


「子持ちと思ったのも、改心させた悪神であったのだな」


 ケインは、ノワを抱き寄せていう。


「ある意味で、ノワは本当の俺の娘ですから」

「そうであったか。これまで誤解していて済まなかった。不明は詫びさせてもらおう」


「あ、いえそんな……」

「ただ、同じ娘を持つ親としては、セフィリアとはもう少し誠意のある交際をしてくれればと思ってのお」


「いや、そもそも交際してないですから!」


 なんでそんな話になるのかと、ケインも苦笑するしかない。


「あ、そうか。ふむ、実は今日来たのはそのことばかりではないのだ。セフィリアに以前より、頼まれていたことがあってな」

「なんでしょう」


「善神アルテナ様を、現世へと蘇らせることだ」

「あ……」


 そういえば、そんな話をセフィリアとしたことがあった。

 その話をオーディア教会の総本山にも頼んでくれていたのか。


「死して善神となられたアルテナ様と、幼馴染であったケイン殿の事情は詳しく聞き届けた。こちらとしても、他ならぬ善者ケイン殿の頼みだ。主神オーディア様に祈りを捧げ、お伺いを立ててその神託を受け取ったのだ」

「それは、どのような」


「うむ。主神オーディア様や、天上におられる神々も、そなたのことは気にかけておられる。これまでのケイン殿の働きは、願いを叶えるに値するものだとな」

「それなら、アルテナは復活できるんでしょうか!」


 前のめりになったケインは、思わず席から腰を浮かせる。

 諦めているなんて思っていても、アルテナが蘇るかもしれないと思えばじっとしていられない。


「まあ、そう焦るでない。なにか特別なことをせよというわけではないのだ。善者ケイン殿の善行は、最高司祭であるこのワシも見届けた。普段どおりのそなたの善き行いを貫けば、やがて願いは天に届くであろう」

「そうですか。ありがとうございます!」


 ケインは、最高司祭レギウスと固く握手する。

 呆れたのは、アナ姫の父クロヴィスである。


 せっかく、レギウスと一緒になって父親連合でケインをとっちめようとおもったのに、なんでこうなった。

 そしてそこに、扉が壊れそうな勢いで飛び込んできたのは、Sランクパーティー『高所に咲く薔薇乙女団』の三人であった。


「うわ、ケイン王国の方で仕事じゃなかったのかお前たち!」


 クロヴィスだって、そのあたりは考えている。

 邪魔が入らぬようにと、娘の留守を狙ってケインをとっちめようとやってきたのに、なんでこんなことに!


「私が呼んだんですよ」


 アナ姫の母、オリヴィアがそう言った。


「おお、お前! なんでそんなことを!」

「だって、久しぶりに来たんだから娘とも話したいじゃないですか」


 オリヴィアは、ニッコリと笑う。


「お父様が、ケインをとっちめにきたんですって。そうはさせないわよ!」


 いきなり神剣を抜剣して、父親に斬りかかるアナ姫。


「アナ姫、いきなり斬りかかるとか無茶苦茶すぎるやろ!」


 マヤが突っ込むが、アナ姫は笑う。


「うちの家庭では、これくらい普通よ。お父様はこれでも天下の大英雄よ。これくらいの攻撃受けられるって」


 どんな家庭なのかと、みんなびっくりする。

 アナ姫がシュパンシュパン斬りかかるのに、赤髭の烈将クロヴィスは冷や汗を流しながら受け止める。


「これでも、とはどういうことだ。ぐぬっ!」


 しかし、もうアナ姫も子供ではない。

 天下の大英雄と謳われたクロヴィスの力が年齢とともに衰えていくのに対し、アナ姫は強さを更に増していっているのだ。


 それゆえに、悲劇は起きた。

 クロヴィスが絶叫する。


「ぎゃああぁぁぁ! 陛下より賜りし、天下の宝剣エーデルヴァイスが欠けてるううぅぅぅ!」


 アナ姫は軽く撃ち込んだつもりでも、とことん手加減ができてないのだ。

 その剣身、純白の雪のごとしと讃えられた宝剣エーデルヴァイスの刃が、無残にもボロボロになってしまっていた。


 あんまりにもクロヴィスがしょげてるので、ケインが声をかける。


「あの、クロヴィスさん。いい鍛冶屋を知ってますから、紹介しましょうか」

「うるさい! 誰がお前なんぞの世話になるかああぁぁぁ!」


 そうクロヴィスが叫んだ瞬間。

 右から「ケインになにいってるのよ!」とアナ姫のパンチが、「うるさいのは貴方よ」と左からオリヴィアの手刀が同時に入った。


 哀れ、天下の烈将クロヴィスは、激しい衝撃にグルンと空中を一回転して、そのまま床に叩きつけられて昏倒する。

 アルミリオン大公爵家は、女性の方が圧倒的に強いのであった。

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