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第11話

「あっ、今気付いたのですが、ワタシ達ってお互いの名前も知りませんでしたよね? そろそろ抽象的な呼び方にして文字数稼ぐのも飽き飽きしてきましたし、ここいらで自己紹介でもいたしましょうかね♪」

「ああ、そういえば……そうだね」

(これって全部が全部、文字数稼ぎだったのかよ。そして、それを平気で作中においてバラすんじゃねぇよ……)


 俺は複雑な顔をしながらも「どうせなら読者達に自分の名を知ってもらう機会だよな?」と、そのクソメイドの思惑とやらに乗っかるヨイショすることにした。


「ワタシの名前は『シズネ』です。まぁぶっちゃけ、元この世界の『魔王様』もしていました。平たく言えば、『元ラスボス』に値する存在ですね。以後お見知りおきを……」

「そうなんだ……あっ、じゃあ『シズネさん』だね。これからはそう呼んでもいいかな?」


 さすがに元魔王様とはいえ、他の人がいる場所で『様付け』してしまうと「様付けだと!? 彼女は一体何者なんだ?」勘繰られると思い、無礼を承知で『さん付け』することにした。


「あ、はい。ご主人様♪」

「はっ? えっ? ご、ご主人様? ……誰が???」


 いきなりご主人様呼ばれされてしまい、一瞬他にも人がいるのかと周りをキョロキョロと見回したのだったが、俺の他にはテクテク歩いている赤い子供ドラゴンくらいしかいなかった。まさか子供ドラゴンをご主人様とは呼ばないだろうし、たぶん俺のことなんだろうけど……。


「えーっと、シズネさん。そのご主人様ってのは一体……」


 俺は性格の悪い暴力的な魔王様のクソメイドとはいえ、メインヒロインクラスの美少女にもう一度だけでも「ご主人様♪」と呼んでもらうため、素知らぬ顔でしれっと、誰を指して呼んでいるのか聞いてみることに。


「アナタ様のことですよ。先程の山賊達のように、ワタシが一人でレストランを経営していると凄く怪しまれてしまいます。ですが夫婦としてレストランを経営しているとなれば、誰も文句を言わなくなると思うのですよ。ですので、アナタは……今からワタシの夫になるのです!!」

「ああ、そういう意味だったのか!」


 俺はアホの子のように、オーバーリアクション気味に大きな声を上げて納得してみることに。


 確かに彼女の言うとおり、こんなに大きなレストランを女性一人で切り盛りし、尚且つオーナーとして所有しているなんて噂が広まれば、周りの人からどんなことを言われるか分かったもんじゃないだろう。


「ええ、そう思うでしょ? ですので、今からワタシが泣く泣くゴミ背景である、アナタの下僕になってあげるのです!! どうですかね、ご主人様っ!! そろそろ感謝の一つもしたら、どうなんですか、ええっ!!」


 そう言いながらクソメイドは本当は不本意とばかりに俺の胸倉を掴み、何故かご主人様である俺に感謝の言葉を言いやがれと恫喝している。


「そんな逆ギレ初めて聞いたわ!! 自分で勝手に俺の下僕宣言しといて、何で逆ギレしてんだよシズネさん!? あと王道テンプレだと普通、立場逆じゃねぇのかよ!? 普通なら俺(モブ)を下僕とかにして、アンタがご主人様って役割が王道じゃねぇか!! なんでそれを真逆のモブの下僕が元魔王様なんだよ! あといつも言ってるけれど、補足説明文地の文を登場人物が勝手に読んで、そのまま次のセリフとして話続けるんじゃねぇよ!!」


 俺はご主人様と呼びながら見下してくるクソメイドに説教をしながら、アンチテンプレのことわりを説いみた。


「……ちっ」

「~~~っ!?」

(何で今、俺は舌打ちされちゃったのよ!? 一応俺がシズネさんのご主人様とやらなんだろ? なら少しは敬えよな……)


 俺の言い分に少しは納得したのか、いや渋々ながら納得したと言った感じで、俺の服を握っていた右手を離し不満そうに舌打ちをしてソッポを向いてしまうシズネさん。


「……」

「……」


 さすがに気まずいのか、互いの間にびみょ~な空気が流れ、言葉を発せずに沈黙してしまう。


(でも、このままじゃマズイよな……)


 俺はこんなギスギスした空気は耐えられないと、とある提案をすることにした。


「あのさ、シズネさん。仮に『夫婦』ってことにするなら、さすがに他の人の前で「ご主人様」呼びってのはマズイと思うんだ。いや、まぁ……ほんとはシズネさんみたいな美少女メインヒロインにそう呼んでもらえるのは嬉しいんだけどね。でも余計に怪しい関係というか、それだとさ、主従関係になっちまうだろ? それで周りの人に変に勘繰られるってのも嫌じゃない?」

(それにまだ物語も序盤だもん。『奴隷ハーレムルート』にゃまだ早いよね? そういうのは伏線を張りながら後々、小刻みに出す方が読者を引っ張れると思うしな!)


 俺は「ほんとは、そんな関係も実は良いよね♪」との『ヒロイン奴隷ハーレムルート』への欲望を押し殺し、健全な関係を築こうと提案してみる。


「……そうですね。読者に期待させ、引っ張り回す……それがワタシ達の本来の使命ですもんね……はい、分かりました♪」


 どうにか納得したのか、顎に手を当てうんうんっと頷いている。


「それでさ、俺の呼び方だけど……俺の名前は『タチバナ・ユウキモブ男』って言うんだ。だからユウキとでも……」

「あっ、はい。『モブさん』ですね。これからはそう呼ぶようにいたしますね、モブ男さん♪」


 何故か俺のことをモブ男さんと呼び始めるクソメイド。


「いや、ちげーし。そんな超DQNドキュンな名前で呼ぶんじゃねぇよ!! 仮にそうだとしても、それは役割だろ? 名前じゃねぇんだよ……」

「いやいやいや、ちゃ~んとそのお目目をかっぽじって、ルビの部分を見やがってくださいよ! しっかりとルビ振りで『モブ男』っと表記までされてるじゃないですか!! 妻であるワタシを疑うのなら、ご自分で確認してみてくださいよ!」


 そう言ってシズネさんは魔法の杖ワンドを手に取ると、俺の目の前へとかざし、まるで何かを操作するように空中でグルグル回した。


 するとその途端、ダーッと今までの会話ログが、俺とシズネさんの目の前へと宙に浮かび上がるよう表示された。きっとこれは補足説明地の文が見れないアンチチートへの配慮かもしれない。あとそもそもお目目かっぽじってしまったら、それ見れなくなるけどいいのかよ、ほんと?


「ほらぁ~。ちゃ~んとルビ振りで『モブ』と書いてあるでしょうがっ!! ほらほら、ほらぁ~っ♪」

「マジかよ!? ほにゃにゃ、いたいでふ、いたいでふ。ごふぇんてば、シズネふぁん」


 確かに目の前に表示されている会話ログには、『タチバナ・ユウキモブ男』とルビ振りで表示されていた。


 しかも当て付けのようにシズネさんが「ほれ見たことか!」と言いながら、魔法の杖ワンドの丸くなってる先っぽで俺の右頬をグリグリとねじ込むよう抉られ、ただただ俺は謝る言葉を口にするしかできなかった。


 俺は仮初めとはいえ夫婦になった途端、尻に敷かれてしまってたのだった……。



 読者さんにネタバレせぬようそれとなく配慮しつつ、お話は第11話へつづく

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