「さて、それでは中にご案内いたしますね♪」
そう言って先導する元魔王様ことクソメイドは「とりあえず……」っと、木で作られた大きな押す式ドアを開け放ち、俺達を店の中に導いた。
キィィィィィーッ、チリンチリン♪
木ドア特有の開放音と共に、お店に来客を知らせる景気の良いドアベルが鳴り響く。このベル音を聞くだけで、「今日もこの店に来たんだな!」と思えるほどである。
読者の方々は一瞬、「おいおい、それはちょっと表現がおかしいんじゃないか?」とも思われたかもしれないが、この街では住人よりも圧倒的に冒険者が多くおり、その目的は先に述べたとおりである。
つまり冒険者達は日長一日
しかも五体満足で無事に生きて帰れる保障など、どこにも存在しないのだ。だからみんなが何気なく感じられるような出来事一つとっても、「ああ、俺は今日も無事に帰って来れたんだな……」っとしみじみ感じてしまうわけなのだよ。
「中は……全然変わってないみたいだな」
俺は文字数稼ぎの補足説明もそこそこに、レストランの中を見回してみる。だがそこは昨日も来た時と同じ、内装のままだったのだ。
まぁ尤もそれも、隣に居るメイド服を着たクソメイドが店を乗っ取ってから一日と経っていないのだから、当然と言えば当然のことだろう。
「ええ。実は改装が出来るほどには資金が無かったので、中はそのまま利用しております。あっ……いらっしゃいませ~、お食事処『
そんな説明をしてくれると同時にオーナーである少女は俺(客?)の真正面に立つと、思い出したかのように両端のスカートをちょこんっと摘まみながら、ゆっくりと頭を下げ来店の挨拶をしてくれた。
「えっ? えっ? あ、ああ……どうも。その、いらっしゃいました?」
(……何で今それを言ったんだよ。いや、お店だから来客があったら普通に挨拶するのがデフォルトなのかもしんないよ、でもするならもっと早くしやがれよな。あと店は強奪したのに、改装するのにゃ金支払う気とかやってることがあやふやすぎんだろうが……)
でも俺はそんな彼女に釣られるよう同じく軽く頭を下げ、いきなりことで戸惑い首を傾げながらも一応の礼儀として少女がしてくれた来店の挨拶に対する返事をしてみた。
「もきゅきゅ~♪」
「ほんなら姫さん、そろそろワテらも中に入りまひょか……って、あれ? なんや? これ、入り口狭すぎてワテが入れませんで! 一体どないなってるんや!?」
ガンガン、ガンガン。ドラゴン二体も俺に釣られて店の中に入ろうとしていたが、生憎と玄関ドアは人間サイズなために黒く巨大なドラゴンは中に入れないようだ。というよりも、無理矢理入ろうとしてドアに体当たりをしていた。
その体当たりの衝撃のおかげなのか、店内の天井からは『パラリラ~、パラリラ~♪』などと、ちょい暴走族を意識したかのように埃チックなものが大量に俺の頭目掛けて降り注いでいた。
「ってかアンタ、この店よりも全然大きな体してんだから、そもそも店の中に入れるわけねぇだろうが……」
俺は頭に積もる埃をガシガシっと手で払い、その確固たる事実を告げる。
「も、もきゅっ!? きゅ~っ。きゅ~っ」
「なんやてぇ~っ!? そんなんワテ、全然気付きませんでしたわ……」
ドラゴン二体は身体的特徴により言われ無き差別感満載で入店を拒まれ、この世の終わりのように嘆き悲しんでいた。
「おやおや、これは盲点でしたね~(笑)。あっ、でもドアだけは壊さないでくださいね♪」
「ほんとかよ? 普通それくらい気付くだろうが……。ってか、アンタもアンタで自分ん
クソメイドはドラゴンが中に入れないことよりも、ドアが心配のご様子。結局、ヘンテコ似非関西弁を喋る巨大な黒いドラゴンを店の外で待機させ、その頭に乗っていた赤い子供ドラゴンだけは店内に入ることに。
「もきゅもきゅ♪」
赤い子供ドラゴンは可愛らしく鳴き声をあげながら、器用にも右左、右左……っとテクテク体を揺らしながら店内を歩いている。そんな姿もちょっと可愛い。
「ええなぁ~、姫さんだけ中に入ることができて~。何でワテはこんなに体大きいんでっしゃろなぁ~。はぁ~っ」
店の外では必死に中の様子を窺うよう、ドアから顔を覗かせて寂し気にしているドラゴンがいた。何気に悲しげな顔と溜め息がより哀愁漂うのを助長していた。
「アレはほんとにいいのかよ……」
ぶっちゃけ店先にあんな馬鹿デカイドラゴンが通せんぼをしていれば、客が中に入るのは至難の業だろう。しかもそれが見た目凶悪そうなドラゴン(現魔王様)ならば余計に、である。
「あっ、埃入るんでドアは閉めておきますね♪」
「えっ? な、なんやなんや!? 姉さん、そりゃあんまりやない……」
ガチャン……カチャリッ。
まだ黒いドラゴンのセリフ途中にも関わらず、オーナー兼クソメイドは玄関ドアを閉めてしまった。
「せ、せめて、セリフくらいは最後まで言わせてやれよ……」
(何気に今クソメイドが玄関のドアだけでなく、鍵までしっかりかけたのを見逃さなかったからな!)
俺はそんなセリフすらも途中で強制的に打ち切られ、締め出されてしまったドラゴンに同情してしまうのだった。
常に営利妨害と防犯の心を胸に抱きつつ、お話は第10話へつづく