「そしてこちらが当店のメニュー表になります。おい、そこの落第勇者! さんもメニューにある料理名と値段などを間違わぬよう、しっかりっとその頭に叩き込んで下さいませ♪」
シズネさんはそう言いながらテーブルの上に乗せられていた、この店の新しいメニュー表を開き、俺とアマネに見せてくれたのだ。何気にアマネのことを『おい、そこの落第勇者!』呼びしているのは、見てみぬフリをしようではないか。
『当店のオススメ♪ ナポリタン:2シルバー(より)』
「メニューってか、ナポリタン一品しかねぇじゃねぇかよ。こんなの覚えるも何もないだろうが……」
「これなら、私でもとても覚えやすいな!」
俺とアマネを食い入るようにメニュー表を覗き込んだ。だがそこには、料理名がナポリタン一品と2シルバーの価格だけが書いてあった。
「(何気に値段のところに小さく『より』ってのが、怪しさ満点だぜ……)」
「ふーむ。ところでシズネ、一つ疑問があるのだが……この値段の隅にある小さな文字は何なのだ?」
俺が気づいたのと時を同じくして、アマネが隅っこにある
いや、むしろ気づかない方がおかしいのかもしれない。
「あらあら、お二人ともそこに気づいちゃいましたか? ……ちっ」
「あっ、おい!」
シズネさんは「何でコイツら、
どうやら一応メニュー表の価格には『2シルバー以上』と小さいながらも書かれていたのかもしれない。
たぶんあまりにも小さな文字で、先程ナポリタンを口に突っ込まれ倒され、そして全財産を奪われた山賊達はこれを見落としていたのかもしれない。
まぁすっごく詐欺的ではあるのだが……。
「はいはいー。わかりましたー。直せばいいんでしょ? 直せば……」
シズネさんは指摘されて機嫌が悪くなったのか、口を尖られながらマジックペンでそこの部分を消し、修正していた。
「キュキュッ……っと。はい、これなら大丈夫ですかね?」
「どれどれ……」
俺は修正したという、部分を見てみることにした。
『当店のオススメ♪ ナポリタン:2シルバー(かもしれない)』
「……これのどこが直ったんだよ? むしろ余計不安になる文言だわ」
そこには先程の『より』という文字が赤線でバツマークとされ、代わりに『かもしれない』という、運転免許を取得時に教えられるのようなあやふやな枕詞に変わっていたのだ。このメニュー表を見たお客は、ある意味『時価』より不安になることは確かだった。
「はぁーっ。ほんと、ウチの旦那様はワガママなのですね。これは面倒な方を夫にしてしまいましたね。やれやれです」
シズネさんはワザとらしく、溜め息交じりでイチイチ文句を言う俺を
「ワガママとか、そういうレベルの話じゃないと思うけど……」
「うむ。まぁそれは良しとして、メニューが一つだけでは格好がつかないのではないか?」
アマネはズレているのか、時価価格には敢えて突っ込みを入れずにメニューの空欄部分を活用しようとシズネさんに提案していた。
「あっ、それは良きお考えですね! 実はワタシもスッカスカのメニューでは寂しいと思っていたところなのですよ♪ ちなみにアマネは何か良きアイディアはありますかね?」
「(ぼそりっ)価格については話終わったのかよ……」
そんな俺の呟きを聞かぬ振りをしながら、シズネさんはアマネに「てめえが言い出したんだから、ちゃんと責任取れよな!」っと質問していた。
「そうだなぁ~。うーん。……おっ! ならオプションを付けるのはどうだろうか?」
「オプション……ですか? ふむふむ……」
アマネは腕を組み少し考えるフリをしながら、意味不明な謎の単語オプションとか言い出していた。さすがにこれにはシズネさんも疑問なのか、少し言葉に詰まっているように俺には見えた。
「(何だよオプションって? ああ、いや……ナポリタンに入れるトッピングか何かか? ほら、最近流行ってるバーガーショップでパティ
俺は身近な例を心の内で述べることで、読者に解りやすさと親しみを提供しようと画策するのだった。
「うむ……きゅきゅっと。こういうのはどうでしょうかね? ジャーン♪」
「(ってか、俺の
シズネさんは俺が
「おおうっ!? これはなんとも凄いの一言だな。さすがに勇者の私でもこれには驚きを隠せないぞ!!」
「……す、すごく斬新なオプションなんだね。シズネさん」
俺とアマネはそこに書かれている文字を見て、驚いてしまうのだった。
果たしてその内容とは一体……。
『オプション:上記料金に+10万シルバーで、この店更地にできます♪ by オーナーより』
「ま、ワタシにかかれば余裕なのですよ♪ くくくっ……」
シズネさんは自らの革新的アイディアに酔いしれているのか、悪い顔をしながら笑いを堪えられずに笑っていた。
「…………」
(もう斬新すぎて思考が追いつく気配をみせねぇよ!! 大体なんだよ、そのオプションは!? 店更地にしちゃったら、そこでこの物語終わっちまうんじゃねぇのか?)」
俺は戸惑いを隠せず、何も言葉を発することができなくなっていた。
「もきゅもきゅ♪」
するとようやく酔いから復活したのか、もきゅ子が「仲間に入れてよー♪」っと、右左右左っとトコトコ歩き、俺の右足にしがみ付いた。
「おや、もきゅ子は寂しがり屋さんなのですね。あっ、そうだ!!」
シズネさんはもきゅ子を見て何かを思いついたのか、再びマジックペンで何かを付け足し始めていた。
「(な~んか、嫌な予感すんだけど……)」
「もきゅ?」
俺はしがみ付いているもきゅ子へと目を向けると、もきゅ子も「ん? なぁ~に?」っと言った感じで見上げてきた。そんな行動もちょっと可愛いらしくてたまらない。
「はいっ。もきゅきゅっと、できましたよ! これでようやくメニュー表も完成ですね♪」
シズネさんは完成したという、メニュー表をもきゅ子にも見えるよう、下へと傾けながら見せてくれた。
「もきゅ? もきゅもきゅ♪」
「(おっほぉ~♪ これは予想外だぜ……)」
もきゅ子はとても喜び鳴いていた。たぶんその意味を知らないから、メニュー表に自分の絵が映り喜んでいるだけかもしれない。
『今なら初回特典として可愛らしい魔王様が付いてくるぞ♪』
「も、もきゅ子を初回特典で付けちまうのかよ……」
(何気に可愛らしい魔王様ってのは、ネタバレありきすぎるんじゃないのか?)
「ニッ♪」
そこにはついにもきゅ子までオマケとして売り飛ばそうとする、少し口元を上げて笑っている
もはやネタバレ不回避、及びメニュー表ですら遊び心を忘れずに、お話は第22話へつづく