俺はあの日、道路で
だが幸いなことに主人公補正の賜物か、魔法やモンスターがいる『異世界』へと無事(?)に転生することができた。
けれども元の体の異性から一切モテない30歳おっさんの
それでも俺は必死に仲間を集めながら世界中を冒険し、ついには魔王を打ち倒して現実世界へと帰ることができたのだった……。
「ふぅ~っ。やっぱり異世界と違って現実世界はごちゃごちゃしてるなぁ~。それにアッチの世界じゃ、美少女ばっかのヒロイン達にモテモテだってのに、こっちの世界じゃちぃ~っととも寄り付きしねぇしな! ほんとこんなことなら、アッチの世界で人生謳歌する方がマシってもんだ」
現実世界から帰って来て早々、俺は異世界で過ごしていた時間を懐かしんでしまう。尤も、アチラの世界にはこっちのような娯楽が一切無いので『飽きた』ということもあったわけなのだが。
異世界にはアニメもなければゲームもない、もちろんラノベなんてものも存在せずに退屈な毎日を過ごしていた。その反動からか、現実世界に戻ってすぐに駅前という名の
(……駅前って、ある意味異世界ばりに生存率激しくないか? 潰れたり新しい店ができたりってさ)
俺は駅前の店を眺めながらにそうしみじみと感傷に浸っていた。
「でもまさか魔王を倒したその瞬間、コッチの世界に戻されるとは思いもしなかったなぁ~」
そう現実世界へと戻る方法とは、人畜無害で有名な魔王様を倒すことだった。
それを条件に俺は勝手知らぬ異世界で奮闘しながら、毎日を生き延びていた。
てっきりそのまま異世界で魔王を倒し英雄と祭り挙げられながら、気ままにヒロイン達と暮らしていけると思っていたのだが、朝目が覚めると強制的に元の世界に居たわけだ。
そしてようやく攻略できる寸前になったヒロイン達をそのまま異世界へと、別れの挨拶すらもできずに置いてきてしまったのは正直忍びなかったことは今更言うまでもない。
「まったくあの『女神様システム』だっけ? あんなもん欠陥だらけじゃねぇかよ。ほんっとに、あのクソ女神めっ!!」
異世界にて死んだはずの俺に新たな命を吹き込んだ、ちょ~っと頭が残念で守銭奴なクソ女神様とか言うのに最初から最後まで翻弄され続けた。
例え途中死んでも否応なしに勝手に生き返らせた挙句「これはお前を生き返らせてやった対価だからな!」っと所持金や持ち物を半分近く強奪された挙句、ブラック企業顔負けの社畜奴隷が如く魔王を倒すため、ヒロイン達と延々冒険をさせられていたのだ。
「あのクソ
「きゃーっ! 誰かあの子を助けてーっ!!」
すると、いきなり女性の悲鳴が響き渡ってきた。
見るとまたもや四斜線道路の車が
「またこんなワンパターンなのかよ。だがこれは大チャ~ンスだ・よ・な!」
俺は時代劇の山吹色のお菓子を差し入れされた悪代官顔負けの悪い表情を浮かべつつも、子犬が助けを待つ幹線道路へと躍り出ることにした。
「よっと。おい、大丈夫か? 怪我はねぇか?」
「くぅ~ん」
「よしよし。もう大丈夫だからな」
そして俺がその白い子犬を助け抱きかかえると同時に、タイミング良くも死を司る
パーン、パンパーン!!
まるで自殺願望が溢れるが如く、道路の真ん中に居る俺達目掛けトラックが一直線に向かってきていた。
(そうそう、このパッティーンだよ。にしてもなんか懐かしいなぁ~……もしかして一年ぶりか?)
俺は過去に跳ねられ死んだことを思い出すと、不思議と異世界で体験してきた時の懐かしさがこみ上げてきていた。
もしもこのまま前回と同じようにあのトラックに跳ねられ死ねば、またあの異世界へと転生できるかもしれない。
パーン、パンパーン!!
けたたましくも、俺を死へと導く任意保険未加入の
「……ふっ。ちょい、っとな♪」
ま、そうは思いながらも俺はトラックが目の前に来るその瞬間、真正面だった体を華麗なステップとともに体を横へと向けトラックを避けてしまった。
そうだ。何も馬鹿正直に真正面からトラックにぶつかるからいけないのだ。そんなもの体を横に向ければ、いとも簡単に回避できてしまう。
「あっぶねーなっ、ばっきゃろーがっ!! こちとら任意保険に入れねーんだぞっっ!! ったく!」
「あっ、すみませーん」
トラックの運ちゃんから罵声一つ。これも生きているから聞ける罵声であろう。
空いている左手を上げて謝罪の言葉を口にすると、トラックはそのまま次の
そして俺は歩道へと戻り、飼い主らしき若い女性へと抱えていた子犬を返す。
「お嬢さん。貴女の子犬に怪我はないようですよ(キリッ)」
「この子を助けてくれて、本当にありがとうございます! 是非、お礼をさせてくださいね!!」
「わんわん♪」
女性は子犬を抱きかかながら、助けた俺へと感謝を述べていた。
「いや、な~に。俺は当然のことをしただけですから……。あのお姉さん、もしよければこれから俺とそこのホテルでデートなんかを……」
「おい、危ないぞ君っ! 上っ! 上っっ!!」
「えっ? う、え? …………っ!?」
ふとそんなおっさんの叫ぶ声が聞こえて「上」という単語だけが耳に入り、俺は言われるがまま反射的に上を向いてしまう。
すると真上には眩しい太陽の光と、それを遮るように振ってくる黒い筒のようなものが見えた。
ぶんぶんぶん…………サクッ。
そんなことを考えているうちに、その振ってきた鉄パイプはまるで狙い済ましたかのように俺の体へと振ってきた。
そして裂けるチーズのように俺の胸をいとも容易く貫いたのだった。
「ま、ま……じ……かよ。これのどこ……が……あんぜ……ん……だい……いち……なんだ……よ」
俺が最後に目にしたものは、工事現場にデカデカと書かれていた『安全第一』と書かれた看板文字と『労災隠しはダメ! ぜったい!』という見出しだった……。
・・・・
・・・
・・
・
「もっきゅっ……きゅ~っ?」
(んっ……ここは?)
目が覚めると、そこは先程まで人ゴミで賑わう駅前ではなかった。
「も、もきゅ、きゅ~っ?」
(ま、マジでどこなんだよ、ここ?)
状況を確認するため周りを見渡すと、板張りの床と俺の背丈よりも何倍も大きなテーブルや椅子が所狭しと並べられていた。
「もきゅ!? きゅ、きゅきゅきゅ!?」
(なんだこれ!? も、もしかして今度は巨人族のところへでも転生しちまったのかぁ~!?)
俺は混乱する頭を更に混乱させつつも、自分が置かれた状況を確認する意味で辺りを見渡す。
「あら、もきゅ子。どうしたのですか一体? そのように床に寝そべって……。もしや、お昼寝でもしていたのですか? ふふっ。そのような所で寝ては風邪をひいてしまいますよ」
「もきゅぅ? きゅきゅきゅ~っ???」
(このメイドさんは一体? それにその
すると俺の目の前には巨人と思いしき美少女のメイドさんが立っており、誰かへと話しかけていた。
それはまるで俺へと話かけているようなのだが……。
「ほぉ~らっ。そのように床で寝転んでいてた汚れてしまいますよ」
「きゅ!? きゅきゅっ!?!? きゅ~っ、きゅきゅきゅ!?」
(わわっ!? 何だコレ!?!? このメイドさん、俺を持ち上げたのか!?)
俺はそのメイドさんに抱き上げられるように脇へと手を入れられ、そのまま持ち上げられてしまう。
「ふふっ。ほら、後ろにある鏡を見てください。お尻のところにもゴミが付いてますよ」
「きゅ? きゅっ? ……きゅ、きゅ~~っ!?!?!?!?」
(後ろ? 鏡? ……って、なんじゃこりゃ!?!?!?!?)
鏡に映っていたのはなんと全身黒服に魔女っ子帽子が似合うメイドさんと、そして抱きかかえられている赤い子供ドラゴンだった……。
第2話へとつづく