「もきゅ~っ」
(何で俺の正体がバレちまったんだ!? 一体どうすりゃいいんだ)
「なんや、だんまりでっかぁ~? がるるるるるる」
俺が何も応えないと、目の前のドラゴンはまるで威嚇するかのように唸り声をあげた。
このままでは正体を見破らただけではなく、あの鋭い歯によって食い殺されてしまうかもしれない。
「も、もきゅきゅ……」
(いや、待てよ……。冷静に考えれば俺の声は「もきゅもきゅ」鳴いているようにしか聞こえないんだから、単に「もきゅきゅ」言ってれば誤魔化せるんじゃねぇか?)
俺は考えあぐねた挙句、「どうせコイツの言葉なんて理解できるわけがないだろう……」と高を括って、鳴き真似だけで必死に誤魔化すことにした。
「もきゅきゅきゅ、きゅきゅ~っ」
「ふんふん。なるほど……そうでっかぁ~」
俺は「もきゅきゅ」っと適当に喋ってる
(ほっ。何だよ、コイツも俺の言葉なんて全然理解できねぇんじゃねぇかよ。これならどうにか誤魔化せるかもしれねぇわ……)
「……アンサン。さっきからワテが姫さんの言葉を理解できないと思って、適当に真似するように鳴いてるだけでっしゃろ? ドラゴンは伊達に長く生きとりゃしまへんねんで、誤魔化せるわけありゃしまへん!」
「もきゅっ!?」
(だから何でバレるんだよ!? いやむしろ、知ってて俺を泳がせていたのかよ!?)
だがしかし、目の前のドラゴンを誤魔化すことはできなかった。…………というか、
むしろ何故、俺は適当もきゅ子言語で誤魔化せると感じたのだろうか、自分でも甚だ疑問である。
「も、もきゅっ」
(ご、ごめんなさい)
「なんや、最初からそうすりゃええんのに」
頭を下げ謝罪すると、目の前のドラゴンは許してくれた。
どうやら頭を下げるという行為自体は、どこの世界においても通用するようだ。
「で、アンサンはどちらさんなんでっかぁ~? 察するにどうもこことは違う、別の世界から来たようやけど……」
(コイツ、そこまで判るのかよ!? そんなヤツ最初から誤魔化せるわけねぇわな)
「ちょい待ってぇ~な。ん……」
目の前のドラゴンに「待て」と言われたのだが、何故かその細く鋭い目を瞑っている。
「もきゅぅ?」
(目を瞑ったりして、何してんだコイツ?)
「言葉を伝えることができないアンサンのためにと、こうして
「きゅ? きゅきゅ? も、もきゅ……きゅきゅぅ?」
(
「もちろんそうですわ。そうやなかったら、こないして互いに話せまへんやろ? アンサンの声、ちゃんと届いてますわ。ワテのように長年生きてきたドラゴンには知識やこんな
どうやらドラゴン種族とはただ強いだけではなく、俺が思い描いていた以上にチート的存在のようだ。
やはりファンタジーの世界において、敵味方に関係なく引っ張りだこになるわけである。
「もきゅきゅ?」
(じゃあ、さっきから人間の言葉喋っていたのも、その能力のおかげなのかよ?)
「いやいや、あれはワテの努力の賜物ですわ。こう人間達にバレんようにと子供達の中に混じって、勉強したんですわ」
「もきゅきゅ!?」
(いやいや、人間の子供に混じって勉強って……それはあまりにも無理がありすぎるだぞ!? よくバレなかったな!!)
その話が本当かどうか定かではないが、目の前のドラゴンが人間の言葉を喋れるのは確かである。
「それはそうとアンサン……というか、兄さんは誰なんでっか? ウチん姫さんはどないしたんや?」
「もきゅきゅ……」
(実は……)
そうしてようやく話せる相手を得た俺は、知ってる限り事の成り行きを説明することにした。
元の現実世界で死んでこっちの世界へと転生してしまったこと、以前にも異世界に転生して冒険して魔王を倒したこと、気がついたらこのもきゅ子の体に転生したいたこと……などなど、一つ一つを自分自身でも確かめるように言葉として繕った。
「そうなんでっか……難儀なもんやなぁ~。ところで、兄さんの名前……何てゆうんでっかいな?」
「きゅ? もきゅ」
(俺か? 俺の名前は……
「あっ、ワテは『ジズ』いいまんねん。よろしゅうな、兄さん」
「もきゅ……もっ、もきゅきゅ!?」
(ああ……って、俺の名前聞いといて呼ばねぇのかよ!? 一体何の振りなんだよ、そりゃあ!?)
俺はその短い手を駆使しながら目の前にいる大きなドラゴン、ジズさんへとツッコミを入れてしまう。
だがそれと同時に、俺は自分の名前を思い出すことが出来のだ。……というのも、実はこの世界に来てから何故だか、自分自身が何者だったかという肝心なを忘れてしまう時があったのだ。
そのことを何気なくジズさんに話したら……。
「兄さん、それは一大事でっせ。もしかすると時間経過と共に姫さんの体と兄さんの魂とが融合して一つとなり、人間だった元の記憶が失われているのかもしれまへんで!」
「もきゅきゅっ!?」
(俺の記憶がなくなるだって!?)
第6話へつづく