「え? 廃部ぅ? なにそれ、ひっどーい!」
僕がたどたどしく事情を説明すると、
「悠人くんが、こんなに頑張ってるのに! ねぇ、氷川さん! なんとかならないの!?」
くるっと向き直り、
「……先ほど申し上げた通りです。規定は規定ですので」
それでも、氷川さんはすぐに冷静さを取り戻し、あくまで事務的な口調で返す。甘粕さんの感情的な訴えも、彼女には響かないらしい。
「むぅ……。じゃあ、部員を集めて、スゴイことすればいいんでしょ? 簡単だよ!」
甘粕さんは、ぷくーっと頬を膨らませたかと思うと、次の瞬間にはもう笑顔に戻っていた。そして、僕の腕に自分の腕を絡めてくる。柔らかくて、甘い匂いがした。
「悠人くんのためなら、私、なんだってするよ! だから、この部、絶対続けよ!」
「あ、ありがとう、甘粕さん……」
近い、近いって……!
彼女の好意は素直に嬉しいと思う。思うけど、この距離感と、真っ直ぐすぎる(ように見える)好意には、どう反応していいか分からない。
僕なんかのために、そこまでしてくれるなんて……。何か裏があるんじゃないか、なんて疑ってしまうのは、僕の悪い癖だろうか。
「そ、そうだよ! 悠人! 甘粕さんもこう言ってくれてるんだし、諦めるのはまだ早いって!」
「まずは部員集めでしょ! 最低5人……ってことは、あと3人か! 私も入るから!」
「え? 紬も入ってくれるのか?」
「当たり前でしょ! 幼馴染が困ってるのに、放っておけるわけないじゃない!」
ニカッと笑う紬。その笑顔は、いつもの太陽みたいに明るくて、僕の不安を少しだけ吹き飛ばしてくれる。やっぱり、紬は頼りになるな……。
「私も、もちろん入るよ! 悠人くんと毎日一緒にいられるんでしょ? やったぁ!」
甘粕さんが、僕に絡めた腕にさらに力を込める。……嬉しい、はずなんだけど、なんだか別のプレッシャーを感じるのはなぜだろう。
「……では、私はこれで失礼します」
その様子を、氷川さんはどこか冷めた目で見つめていたが、やがて興味を失ったように
「あ、あの、氷川さん!」
思わず呼び止めてしまう。彼女の助けが必要だとか、そういうわけじゃない。ただ、このまま何も言わずに去らせてしまうのは、違う気がした。
「何か?」
振り返った氷川さんの瞳は、やっぱり冷たい。まるで、僕たちの足掻きを嘲笑っているかのようにさえ見える。……いや、そんなはずはないか。彼女はただ、自分の役割を果たしているだけなんだ。
「えっと……その、条件、教えてくれて、ありがとうございました」
「……別に。当然のことを伝えたまでです」
ふい、と彼女は再び顔を背ける。その時、ほんの一瞬だけ、彼女の白い頬が微かに赤らんだように見えたのは……きっと、西日のせいだろう。長い黒髪がさらりと揺れて、彼女の姿はすぐに廊下の向こうへと消えていった。
「なーんか、感じ悪いよねー、氷川さんって」
甘粕さんが、氷川さんの去った方を睨むようにして唇を尖らせる。
「まあまあ……。でも、これで目標は決まったわけだし! 早速、部員集めと、何か実績になるような依頼を探さないと!」
紬が、パンと手を打って、場を仕切り直そうとする。こういう時の彼女は、本当に頼もしい。
「部員、あと二人か……誰か心当たりいる?」
「うーん……」
腕を組んで考える。僕の知り合いで、こんな得体の知れない部に入ってくれそうな人……。親友の
「とにかく、声かけてみないと始まらないよ! 明日から勧誘活動開始!」
「そうだね! 私も頑張って可愛い子、勧誘しちゃう!」
「……甘粕さん、可愛い子限定じゃなくて、誰でもいいんだけど……」
「えー? だって、悠人くんの周りには可愛い子しかいらないもん!」
無邪気に(?)言い放つ甘粕さんに、僕と紬は顔を見合わせて、乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
僕と、世話焼きな幼馴染と、ちょっと(かなり?)重い好意を寄せてくれるクラスメイト。そして、去っていったクールビューティー。
始まったばかりのよろず相談部、いや、『新生』よろず相談部は、早くも前途多難な雰囲気を漂わせていた。本当に、大丈夫なんだろうか、これ……。