忘れられた温室の再生作業は、僕たちの予想以上に大変だった。
数日かけて、ようやく温室内の瓦礫やゴミの撤去、床の掃除が終わったけれど、問題は山積みだ。割れたガラスの交換、壊れた棚の修理、そして何より、植物を育てるための土壌の整備……。
「うーん……。この割れたガラス、どうしようか。危ないし、早く交換したいけど……」
大きくひび割れた窓ガラスを見上げながら呟くと、
「学校の用務員さんに頼めば交換してくれるかな……? でも、こんな古い温室のガラス、予備があるかどうか……」
「費用だって、かかるかもしれませんわ。まあ、わたくしが立て替え……いえ、寄付して差し上げてもよろしくてよ?」
「いや、それはさすがに……。部の活動だし、自分たちでなんとかしないと」
僕が遠慮すると、彼女は少し不満そうに唇を尖らせた。
「土も……このままじゃ、ダメみたいです……。栄養が、全然ない……。肥料とか、新しい土とか、必要……です」
「肥料かぁ……。学校の予算で買えるかな……」
「悠人くん、大変そうだね……。はい、これ飲んで元気出して!」
……ただ、僕にだけじゃなくて、他のメンバーにも配ってくれると、もっと嬉しいんだけど……。
必要なものリストを洗い出していくと、思った以上に費用と手間がかかることが分かってきた。部の予算なんて、あってないようなものだし、どうしたものか……。僕たちが頭を悩ませていると。
「あらあら、皆さん、ずいぶんと熱心ですねぇ」
不意に、背後から聞き慣れた、どこか飄々とした声が聞こえた。
振り返ると、そこには、マグカップ片手に、面白そうな表情でこちらを見ている担任の
「桐島先生! どうしてここに……?」
「んー? ちょっと散歩してたら、何やら楽しそうな声が聞こえたものですから。よろず相談部の皆さん、こんなところで油を売っていたんですか?」
先生は、荒れ果てた(それでも少しはマシになった)温室を見回して、にこりと笑う。
「油じゃなくて、温室の再生作業です! 活動実績作りのために!」
紬が、少しむきになって説明する。
「へぇ、温室再生ですか。それはまた、大きく出ましたねぇ」
先生は、感心したような、からかうような、どちらとも取れない口調で言う。
「それで? 何かお困りのようですが」
「それが……必要なものが色々あって……。ガラスとか、土とか、肥料とか……」
正直に話すと、先生は「ふむふむ」と頷きながら、マグカップのコーヒーを一口飲んだ。
「なるほど。つまり、資金と資材が足りない、と。よくある話ですね」
「そ、それを何とかしたくて……」
「でしたら、まずは『あるもの』を最大限に活用することを考えてみては?」
先生は、人差し指を立てて、にっこりと笑う。
「あるもの……ですか?」
「ええ。例えば……そうですねぇ、学校には使われなくなった古い道具や、他の部活が余らせている資材、なんてものが眠っているかもしれませんよ? それに、知識や技術だって立派な『あるもの』です。小鳥遊さんの植物の知識、西園寺さんのお家の力(?)、甘粕さんのお料理の腕前、桜井さんのその……えーっと、元気?」
最後、ちょっと適当じゃなかったですか、先生……。紬がジト目で先生を見ている。
「まあ、要するに、無いものを嘆く前に、自分たちの持っているもの、周りにあるものをよく見渡してみなさい、ということです。意外なところに、解決の糸口が転がっているかもしれませんよ?」
先生はそれだけ言うと、「では、私はこれで」と、またひらひらと手を振って去っていこうとする。
「あ、先生! その……ありがとうございます!」
慌てて礼を言うと、先生は肩越しに振り返り、悪戯っぽく笑った。
「どういたしまして。まあ、せいぜい頑張ってくださいな、部長さん? この活動が、本当に『実績』になるかどうかは……あなたたち次第、ですからね」
意味深な言葉を残して、先生は今度こそ去っていった。嵐のような人だ……。
「……『あるもの』を、活用、か……」
紬が、先生の言葉を反芻するように呟く。
「学校に眠ってる道具……。用務員さんに聞いてみようか?」
「古い土も……工夫すれば、再生できるかも……しれません」
小鳥遊さんも、何か思いついたようだ。
「わたくしのお
西園寺さんまで、協力的になってくれている。
「私は、みんなのために、美味しいおやつ、いっぱい作ってくるね!」
甘粕さんは……まあ、いつも通りだけど、それも大事なサポートだ。
桐島先生の言葉は、僕たちに新しい視点をくれた。お金や物に頼るだけでなく、自分たちの知恵と工夫、そして周りにあるものを活かす。それこそが、よろず相談部らしいやり方なのかもしれない。
課題は多いけれど、やるべきことが見えてきた。僕たちは、改めて顔を見合わせ、温室再生への決意を新たにするのだった。
【ヒロイン好感度(第15話終了時点 推定)】
氷川 澪: 30 / 100
(変化なし)
甘粕 陽菜: 93 / 100
(悠人へのアピールは継続するが、他のヒロインとの共同作業に内心ストレスを感じている可能性。僅かに下降)
西園寺 麗華: 73 / 100
(部の活動への関与が深まり、具体的な協力姿勢も見せる。悠人や他のメンバーへの理解が進み、上昇)
桜井 紬: 84 / 100
(困難な状況でもリーダーシップを発揮し、皆をまとめる。悠人との協力関係も深まり、上昇)
小鳥遊 和奏: 78 / 100
(計画の中心として知識を発揮し、貢献実感を得る。悠人からの信頼も感じ、好意がさらに上昇)