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第16話 あるものを探し、あるものを活かして

「『あるもの』を、活用……ね」


 桐島先生の言葉は、僕たちにとって大きなヒントになった。

 無いものをねだるのではなく、今ここにあるもの、自分たちが持っているものに目を向ける。よろず相談部らしい、手作りの活動方針だ。


 翌日から、僕たちは早速行動を開始した。

 僕とつむぎは、まず学校の用務員さんに話を聞きに行った。長年この学校に勤めているベテランの用務員さんは、僕たちの温室再生の話を面白そうに聞いてくれ、旧校舎の隅にある、今は使われていない倉庫の鍵を貸してくれた。


「埃っぽいけどな、昔の園芸部が使ってた道具とか、古い木材なんかが残ってるかもしれんぞ。好きに見ていいぞ」

「ありがとうございます!」


 埃とカビの匂いが充満する倉庫の中は、まさにお宝の山だった。錆びてはいるけれど、まだ使えそうなスコップやくわ、古いけれど丈夫そうな木材、ペンキの缶……。僕たちは、使えそうなものをリストアップし、用務員さんに許可をもらって、少しずつ温室へと運び込んだ。


 一方、小鳥遊たかなしさんは、図書館で借りてきた専門書や、自身の知識を総動員して、「土壌改良計画」を立ててくれていた。


「こ、この……枯れ葉とか、刈った草とかを集めて……堆肥たいひを、作れると、思います……。時間は、かかりますけど……一番、お金がかからない、し……土にも、優しい……です」


 彼女は、スケッチブックに描いた分かりやすい図(ミミズの絵が妙にリアルだった)を見せながら、一生懸命説明してくれる。その姿は、いつもの引っ込み思案な彼女からは想像できないほど、生き生きとして見えた。

 僕たちは、彼女の計画に従って、校内の落ち葉や刈草を集め、温室の隅に堆肥を作るスペースを設けた。これもまた、地道だけど大切な一歩だ。


 そして、西園寺さいおんじさんはというと……。


お兄様にいさまじいや・・に言って、使っていない園芸用具を持ってこさせましたわ!」


 数日後、彼女は得意満面な様子で、大きな段ボール箱を(運んできたのはもちろん彼女自身ではなく、いつの間にか現れた執事らしき老紳士だった)僕たちの前に差し出した。


 中に入っていたのは……。


「……これって、銀……?」


 紬が、恐る恐る手に取ったシャベルは、鈍い銀色の輝きを放っていた。持ち手には、何やら複雑な彫刻まで施されている。他にも、明らかに高級そうな剪定鋏せんていばさみや、見たこともないようなデザインのジョウロなど……。


「ええ、わたくしの祖母が、趣味で使っていたものですけれど、もう使わないそうですから。どうぞ、お使いになって?」

「いや、これは……さすがに、使えないよ……!」


 僕たちが、その豪華すぎる道具を前に尻込みしていると、西園寺さんは少し不満そうに頬を膨らませた。


「まあ、仕方ありませんわね。庶民の方々には、扱いが難しいのかもしれませんわ。……では、こちらの『一般的な』ものなら、よろしいでしょう?」


 そう言って、彼女は別の(それでも十分に綺麗で使いやすそうな)道具一式を追加で差し出した。

 どうやら、僕たちが遠慮することを見越して、両方用意してくれていたらしい。素直じゃないけど、彼女なりの気遣いなんだろう。ありがたく使わせてもらうことにした。


 もちろん、甘粕あまかすさんのサポートも健在だ。


「みんな、お疲れ様ー! 今日は、特製のレモネードと、フルーツサンド作ってきたよ!」


 作業で疲れた僕たちにとって、彼女の差し入れは砂漠のオアシスだ。特に、汗をかいた後の冷たいレモネードは最高に美味しい。


「悠人くん、はい、あーん!」

「あ、ありがとう……(もぐもぐ)」


 ……僕専用の「あーん」がなければ、もっと最高なんだけど。

 その度に、紬の呆れた視線と、西園寺さんの「はしたないですわ」という呟き、そして甘粕さん自身の満足げな笑顔がセットでついてくるのは、もはやお約束になっていた。


 そんなこんなで、僕たちの温室再生作業は、少しずつ、だけど着実に進んでいった。

 倉庫から運び込んだ木材で壊れた棚を補修し、ペンキで色を塗り直す。西園寺さんが持ってきてくれた道具で、土を耕し、小鳥遊さんの指導のもと、堆肥作りを始める。割れたガラスは、とりあえず危険がないように取り除き、応急処置として、学校の技術室から分けてもらったアクリル板をはめ込んだ。


 まだまだ完成には程遠いけれど、温室は少しずつ、かつての息吹を取り戻し始めているように見えた。

 何より、この共同作業を通して、僕たちメンバーの間の距離も、確実に縮まっている気がした。大変な作業も、みんなでやれば乗り越えられる。そんな手応えを感じながら、僕たちは額の汗を拭った。

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