「……さて、よろず相談部の皆さん。約束の期限が来ましたので……」
彼女の冷徹なまでに落ち着いた青い瞳が、僕、
やがて、氷川さんは、小さく、本当にごく僅かに息を吸い込むと、淡々とした口調で告げた。
「結論から申し上げます。よろず相談部の廃部処分は……見送ることになりました」
「…………え?」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。見送る……? それって、つまり……。
「ほ、本当ですか、氷川さん!?」
思わず大きな声で尋ね返すと、彼女はこくりと頷いた。
「ええ。理由は二つあります。第一に、先日提出された活動報告書に基づき、旧校舎裏温室の再生・管理活動は、学園環境の美化、及び生徒の憩いの場の創出に貢献する、特筆すべき活動実績として認められました」
やった……! 温室再生が、ちゃんと実績として認められたんだ!
「そして第二に、先ほど西園寺麗華さんから正式な入部届が提出され、部員数が5名に達したため、部としての最低存続要件を満たしたと判断されました」
氷川さんの視線が、隣に立つ西園寺さんへと向けられる。西園寺さんは、ふふん、と得意げに(でも少し照れたように)胸を張っている。
……いつの間に、入部届を出したんだろう? さっきの言葉は、そういう意味だったのか!
「と、いうことは……」
「よろず相談部の存続を、正式に認めます」
氷川さんが、きっぱりと言い切った。
「――やったぁああああ!!」
その瞬間、僕と紬は、同時に叫んでいた。思わずハイタッチを交わす。隣では、小鳥遊さんが、信じられないといった表情で目を丸くした後、堰を切ったようにぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「よ、よかった……本当によかった……!」
「うん、よかったね、小鳥遊さん!」
紬が、優しく彼女の背中をさすってあげている。
「悠人くんっ! やったね!」
甘粕さんは、僕に思い切り抱きついてきて、その喜びを全身で表現している。……嬉しいけど、ちょっと苦しい!
「まあ、当然の結果ですわ。このわたくしが、力を貸して差し上げたのですから」
西園寺さんは、あくまでクールを装っているけれど、その口元は隠しきれない笑みを浮かべていた。
部室は、一気に歓喜と安堵の渦に包まれた。これまでの苦労が、不安が、一気に吹き飛んでいく。みんなで力を合わせれば、不可能なんてないんだ……!
「……静粛に」
その時、氷川さんの、少しだけだが感情のこもった声が響いた。僕たちは、はっと我に返り、彼女の方を見る。
「存続は決定しましたが、これで終わりではありません。むしろ、これからが本番です。よろず相談部には、今後も継続的な活動と、学園への貢献が求められます。生徒会としても、その活動を注視していきます」
彼女の言葉は、浮かれていた僕たちの頭を少しだけ冷やしてくれた。そうだ、まだ始まったばかりなんだ。
「……期待していますよ。あなたたちの『よろず相談』が、本当に誰かの役に立つものになるのかどうか」
氷川さんは、最後に僕の目をじっと見つめて、そう言った。その瞳には、いつもの冷たさとは違う、何か……ほんの少しだけ、温かいものが含まれているような気がした。……いや、きっと気のせいだろう。
彼女は、それだけ言うと、静かに部室を後にした。
嵐のような宣告の時間が過ぎ去り、部室には、改めて喜びと安堵の空気が満ちる。
僕たちは、顔を見合わせて、満面の笑みを浮かべた。正式部員5名。活動実績、第一号達成。そして、部の存続決定。
よろず相談部は、今日、確かな産声を上げたのだ。個性豊かで、少し(かなり?)癖のある五つの
未来への期待に胸を膨らませながら、僕たちの新しい日々が、今、始まろうとしていた。