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第22話 新生よろず相談部、始動!

「いやー、ほんっとうに、よかったぁ……!」


 部の存続が正式に決まった翌日の放課後。よろず相談部の部室には、安堵と興奮の余韻がまだ色濃く残っていた。


「まさか、本当に存続できるなんて……。正直、半分くらい諦めてたよ」


 ソファに座って感慨深げに呟くのは、つむぎだ。彼女が最初から協力してくれなければ、ここまで来ることはできなかっただろう。


「ふふん、諦めるなんて、わたくしに失礼ですわ。この西園寺麗華が目をつけた部が、廃部などという結末を迎えるはずがありませんことよ」


 いつの間にか自分の指定席のようになっている長椅子で、優雅に紅茶(もちろん自前)を飲んでいるのは、晴れて正式部員となった西園寺さいおんじさんだ。その口調は相変わらずだけど、どこか嬉しそうだ。


「これも全部、悠人くんが頑張ったからだよ! ねっ!」


 甘粕あまかすさんは、当然のように僕の隣に座り、腕にぎゅっとしがみついてくる。……まあ、僕一人の力じゃないんだけど。


「あ、あの……私も、少しは、役に立てましたか……?」


 少し離れた席で、小鳥遊たかなしさんが、不安そうにこちらを見ている。


「もちろんだよ! 小鳥遊さんのアイデアと知識がなかったら、温室再生なんてできなかった!」


 力強く言うと、彼女ははにかむように俯き、小さな声で「よかった……」と呟いた。


 改めて、部室を見回す。僕、紬、甘粕さん、小鳥遊さん、そして西園寺さん。個性も性格もバラバラな五人が、こうして一つの場所に集まっている。なんだか、不思議な感じだ。でも、悪い気はしない。むしろ、これからこのメンバーで何ができるのか、ワクワクする気持ちの方が強い。


「さて、と。お祝いムードもいいけど、これからどうするか、ちゃんと話し合わないとね」


 紬が、パンと手を打って場を仕切り直す。そうだ、いつまでも喜んでばかりはいられない。存続は決まったけれど、これからが本番なのだ。


「まずは、依頼の受け方かな。今までは目安箱だけだったけど、もっと積極的に受け付けた方がいいかもね。温室みたいに、自分たちで何かを見つけて活動するのもいいけど」

「ふむ……。確かに、いつまでも『待ち』の姿勢では、部の格が上がりませんわね。いっそ、生徒全員にアンケートを取り、潜在的な『お困りごと』をリストアップするのはどうかしら?」


 西園寺さんが、突拍子もないことを言い出す。


「アンケート!? そんなの、手間も時間もかかりすぎるよ……」

「あら、お兄様。効率ばかりを気にしていては、真の奉仕はできませんことよ?」


 うーん……言ってることは立派だけど……。


「あ、あの……部の、看板とか……ポスターとか、作るのは、どう、でしょうか……? よろず相談部があるって、もっと、知ってもらえたら……依頼も、来るかも……」


 小鳥遊さんが、おずおずと提案してくれる。彼女の手元には、いつの間にかスケッチブックが開かれていて、可愛らしいデザインの看板のラフスケッチが描かれていた。これは良いアイデアかもしれない。


「いいね、それ! 小鳥遊さん、デザインお願いできる?」

「は、はい……! が、頑張ります……!」


「そうだ! 活動報告も、もっと可愛くしちゃおうよ! 私がお菓子の写真とかいっぱい載せて、ブログとか作るのはどうかな?」


 甘粕さんが、目を輝かせて言う。……活動報告に、お菓子の写真がメインになるのは、ちょっと違う気がするけど……。


「まあまあ、色々アイデアは出るけど、まずはできることからやっていこうよ。温室の管理当番も決めないとね」


 紬が、現実的な視点で話をまとめる。

 看板作り、温室の管理、そして新たな依頼への対応……。やるべきことはたくさんある。大変そうだけど、なんだかすごく、楽しそうだ。


 五人になったよろず相談部。それぞれの個性と、それぞれの想いが交錯する、賑やかで、少しだけ騒がしい日々。僕たちの新しい物語は、まだ始まったばかりだ。


 これから、どんな依頼が舞い込んで、どんな出来事が待っているんだろう?


 そんなことを考えていると、部室のドアに設置された目安箱が、かすかに「ことり」と音を立てたような気がした。

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