「いやー、ほんっとうに、よかったぁ……!」
部の存続が正式に決まった翌日の放課後。よろず相談部の部室には、安堵と興奮の余韻がまだ色濃く残っていた。
「まさか、本当に存続できるなんて……。正直、半分くらい諦めてたよ」
ソファに座って感慨深げに呟くのは、
「ふふん、諦めるなんて、わたくしに失礼ですわ。この西園寺麗華が目をつけた部が、廃部などという結末を迎えるはずがありませんことよ」
いつの間にか自分の指定席のようになっている長椅子で、優雅に紅茶(もちろん自前)を飲んでいるのは、晴れて正式部員となった
「これも全部、悠人くんが頑張ったからだよ! ねっ!」
「あ、あの……私も、少しは、役に立てましたか……?」
少し離れた席で、
「もちろんだよ! 小鳥遊さんのアイデアと知識がなかったら、温室再生なんてできなかった!」
力強く言うと、彼女ははにかむように俯き、小さな声で「よかった……」と呟いた。
改めて、部室を見回す。僕、紬、甘粕さん、小鳥遊さん、そして西園寺さん。個性も性格もバラバラな五人が、こうして一つの場所に集まっている。なんだか、不思議な感じだ。でも、悪い気はしない。むしろ、これからこのメンバーで何ができるのか、ワクワクする気持ちの方が強い。
「さて、と。お祝いムードもいいけど、これからどうするか、ちゃんと話し合わないとね」
紬が、パンと手を打って場を仕切り直す。そうだ、いつまでも喜んでばかりはいられない。存続は決まったけれど、これからが本番なのだ。
「まずは、依頼の受け方かな。今までは目安箱だけだったけど、もっと積極的に受け付けた方がいいかもね。温室みたいに、自分たちで何かを見つけて活動するのもいいけど」
「ふむ……。確かに、いつまでも『待ち』の姿勢では、部の格が上がりませんわね。いっそ、生徒全員にアンケートを取り、潜在的な『お困りごと』をリストアップするのはどうかしら?」
西園寺さんが、突拍子もないことを言い出す。
「アンケート!? そんなの、手間も時間もかかりすぎるよ……」
「あら、お兄様。効率ばかりを気にしていては、真の奉仕はできませんことよ?」
うーん……言ってることは立派だけど……。
「あ、あの……部の、看板とか……ポスターとか、作るのは、どう、でしょうか……? よろず相談部があるって、もっと、知ってもらえたら……依頼も、来るかも……」
小鳥遊さんが、おずおずと提案してくれる。彼女の手元には、いつの間にかスケッチブックが開かれていて、可愛らしいデザインの看板のラフスケッチが描かれていた。これは良いアイデアかもしれない。
「いいね、それ! 小鳥遊さん、デザインお願いできる?」
「は、はい……! が、頑張ります……!」
「そうだ! 活動報告も、もっと可愛くしちゃおうよ! 私がお菓子の写真とかいっぱい載せて、ブログとか作るのはどうかな?」
甘粕さんが、目を輝かせて言う。……活動報告に、お菓子の写真がメインになるのは、ちょっと違う気がするけど……。
「まあまあ、色々アイデアは出るけど、まずはできることからやっていこうよ。温室の管理当番も決めないとね」
紬が、現実的な視点で話をまとめる。
看板作り、温室の管理、そして新たな依頼への対応……。やるべきことはたくさんある。大変そうだけど、なんだかすごく、楽しそうだ。
五人になったよろず相談部。それぞれの個性と、それぞれの想いが交錯する、賑やかで、少しだけ騒がしい日々。僕たちの新しい物語は、まだ始まったばかりだ。
これから、どんな依頼が舞い込んで、どんな出来事が待っているんだろう?
そんなことを考えていると、部室のドアに設置された目安箱が、かすかに「ことり」と音を立てたような気がした。