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第23話 目安箱と新たな謎

「……ん?」


 活気を取り戻した部室で、今後の活動について話し合っていた僕たちの耳に、確かにそれは聞こえた。

 ことり、と。部室のドアに取り付けられた、古びた木製の目安箱が立てた小さな音。


「今の音……もしかして」


 つむぎが、期待のこもった視線を目安箱に向ける。他のメンバーも、自然とそちらに注目していた。まさか、こんなに早く次の依頼が……?


 ゆっくりと席を立ち、目安箱へと歩み寄る。ギィ、と小さな音を立てて蓋を開けると……そこには、一枚の白い封筒が静かに置かれていた。本当に、依頼が来たんだ!


「あった! 手紙だ!」


 僕が声を上げると、メンバーがわらわらと集まってくる。


「まあ、早々に次の依頼とは、幸先の良いスタートですわね」

「どんなお願いかな? 面倒じゃないといいけど……」

「悠人くん、早く開けてみて!」

「……どきどき、します……」


 みんなの期待のこもった視線を感じながら、僕は慎重に封筒を開け、中の便箋を取り出した。そこには、少し癖のある、だけど丁寧な文字で、こう書かれていた。


『よろず相談部の皆様

  突然のお願いで申し訳ありません。

 実は、この碧陽学園に古くから伝わる『七不思議』について、調べていただきたいことがあるのです。

 その中でも、特に『開かずの音楽室のピアノ』の謎を解明していただけないでしょうか。

 夜な夜な、誰もいないはずの旧校舎の音楽室から、ピアノの音が聞こえてくるという噂です。単なる噂なら良いのですが、最近、その音を聞いたという生徒が複数おり、少し気味が悪いのです。

 どうか、この謎の真相を突き止めてください。


匿名希望』


「……学校の七不思議?」


 依頼内容を読み上げると、部室に一瞬の沈黙が訪れた。


「な、七不思議ですって!? まあ、くだらない! オカルトですの!?」


 最初に反応したのは、西園寺さいおんじさんだった。彼女は、心底馬鹿馬鹿しいといった表情で、腕を組む。


「うーん、七不思議ねぇ……。聞いたことあるような、ないような……」


 紬が首を捻る。


「開かずの音楽室のピアノ……なんか、怖いね……」


 甘粕さんが、少し怯えた様子で僕の腕にしがみついてくる。……こういう時は、頼ってくれるんだな。


「ピ、ピアノ……?」


 小鳥遊たかなしさんは、怖いというよりは、何か別のことに興味を引かれているような表情で、小さく呟いた。


「それで、どうする? この依頼、受ける?」


 紬が、僕たちを見回して尋ねる。正直、オカルトめいた話は少し苦手だけど、「困っている(気味が悪いと感じている)」人がいるなら、無下にはできない。それに、謎解きというのは、少しだけワクワクする気持ちもある。


「わたくしは反対ですわ! このような非科学的な調査、時間の無駄ですことよ!」


 西園寺さんは、きっぱりと反対の意を示す。


「でも、依頼として来ちゃったわけだし……。それに、もし本当に何か原因があるなら、解決してあげたい気もするけど」


 僕が言うと、紬も頷く。


「そうだね……。それに、七不思議の謎解明なんて、成功すれば結構大きな『実績』になるんじゃない?」

「あ、それ、いいかも! みんな注目するよ、きっと!」


 甘粕さんも、実績になると聞いて少し乗り気になったようだ。


「あの……もし、本当に、ピアノの音がするなら……そのピアノ、見てみたい、かも……しれません……。古いピアノには、素敵な音がするものも、ありますから……」


 小鳥遊さんが、意外にも興味を示している。彼女は、絵だけでなく、音楽にも関心があるのかもしれない。


「うーん……。まあ、お兄様や皆さんがそこまで言うなら……仕方ありませんわね。わたくしも、付き合って差し上げなくもありませんわ。ただし! オカルトや幽霊の類は一切信じませんし、もし変なものが出たら、わたくし、すぐに帰りますからね!」


 結局、西園寺さんも(相変わらず上から目線だけど)参加することになった。これで、意見は一致だ。


「よし、じゃあ、よろず相談部、次の依頼は『開かずの音楽室のピアノの謎解明』に決定!」


 宣言すると、みんな(西園寺さん以外は)頷いた。


「まずは情報収集からだね。七不思議について詳しい人とか、音楽室について何か知ってる先生とか……」

「噂話を集めるのも有効かもしれませんわね。わたくしの情報網を……いえ、まあ、皆で手分けして聞き込みをしましょう」

「図書館で、昔の学校の資料とか、調べてみます……!」

「私は、悠人くんのそばで、応援してるね!」


 甘粕さんは……まあ、うん。


 新しい依頼は、これまでの猫探しや温室再生とは、また少し違う、ミステリアスな雰囲気を持っている。僕たちは、少しの不安と、それを上回る好奇心を胸に、新たな謎へと挑むことになった。


 開かずの音楽室に隠された秘密とは、一体何なのだろうか……?

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