「学校の七不思議、ねぇ……。まずは、情報収集から、だな」
よろず相談部の新たな依頼、『開かずの音楽室のピアノの謎解明』。僕たちは、翌日の放課後、さっそく調査を開始することにした。
「手分けして情報を集めましょう。わたくしは……まあ、独自のルートで調べてみますわ」
「じゃあ、私と陽菜ちゃんで、生徒や先生に聞き込みしてみるよ! 七不思議の噂とか、音楽室のこととか!」
「えー? 私、悠人くんと一緒がいいんだけどな……」
「あの……わ、私は……図書館で、昔の資料とか、探してみます……。何か、記録が残ってるかも……」
「じゃあ、僕は小鳥遊さんと一緒に図書館に行くよ。何か手伝えることもあるだろうし」
「えっ……!? は、はい……!」
そう言うと、小鳥遊さんの顔がぱっと赤くなる。……そんなに驚かなくても。
こうして、僕たちは二手に分かれて調査を開始した。
小鳥遊さんと向かったのは、新校舎にある広々とした図書館だ。司書の先生に事情を話し、古い学校文集や新聞のバックナンバーが保管されている書庫に入れてもらう。
「うわ……すごい数……」
埃っぽい書庫には、年代物の資料がぎっしりと並んでいた。この中から、音楽室やピアノに関する記述を探し出すのは、かなり骨が折れそうだ。
「あの……音楽室は、旧校舎ができた時から、あるはずなので……かなり古い資料から、見た方がいいかも、しれません……」
小鳥遊さんが、的確なアドバイスをくれる。そして、黙々と古い文集や新聞のページをめくり始めた。文字がかすれていたり、旧字体で書かれていたりして、読むだけでも一苦労だ。
しばらくして、小鳥遊さんが「あ……」と小さな声を上げた。
「どうしたの?」
「これ……見てください……」
彼女が指差したのは、数十年前の学校新聞の記事だった。『喝采! 音楽コンクールで本校生徒が快挙!』という見出し。記事には、一人の女子生徒がピアノを弾いている白黒写真が添えられていた。
「このピアノ……もしかして……」
写真のピアノは、古くて不鮮明だったけれど、旧校舎の音楽室にある(と噂される)ピアノの特徴と似ている気がする。そして、記事には、その女子生徒が、コンクール後に病気で若くして亡くなった、という追悼文も載せられていた。
「……なるほど。これが、噂の元になっているのかもしれないな」
才能ある生徒の悲劇と、曰く付きのピアノ。七不思議の背景には、こういう物語が隠されていることが多い。
一方、紬と甘粕さんの聞き込みチームは、様々な噂話を集めてきたようだ。部室に戻ると、二人は興奮気味に報告してくれた。
「聞いた聞いた! やっぱり、夜中にピアノの音がするって噂、結構有名みたい!」
「うんうん! しかも、悲しいメロディーなんだって!」
「あとね、誰もいないはずなのに、音楽室の窓に人影が見えた、とか……」
「えぇ……それは、ちょっと怖いかも……」
甘粕さんが、ぶるっと身震いする。
「先生にも聞いてみたんだけど、音楽室自体は、老朽化がひどくて、数年前から立ち入り禁止になってるんだって。だから『開かずの音楽室』ってわけ」
「じゃあ、やっぱり誰も弾いてないはずなんだ……」
そこへ、独自調査(?)を終えた西園寺さんが、何やら分厚いファイルを持って戻ってきた。
「
「本当かい!?」
「ええ。わたくしの調査によりますと、例のピアノは、ドイツ製の非常に古いグランドピアノで、学園創立時に、とある
「ええっ!?」
まさかの事実に、僕たちは驚きの声を上げる。西園寺さんの家と、あのピアノに繋がりがあったなんて……。
集まった情報を整理すると、こうなる。
・旧校舎の音楽室は老朽化で立ち入り禁止。
・しかし、夜中に誰もいないはずの音楽室からピアノの音が聞こえるという噂がある(悲しいメロディー? 人影?)。
・そのピアノは、西園寺さんの曽祖父が寄贈した古いドイツ製のグランドピアノ。
・数十年前、そのピアノを弾いていた才能ある女子生徒がコンクールで活躍したが、その後若くして亡くなっている。
断片的な情報が繋がり、謎の輪郭がおぼろげながら見えてきた気がする。でも、一番の疑問は解決していない。一体、誰が、何の目的で、夜中にピアノを弾いているのか? それとも、本当に……?
「……こうなったら、直接行ってみるしかない、か」
僕が呟くと、メンバーの間に緊張が走った。
夜の旧校舎、開かずの音楽室。僕たちの次のステップは、そこへの潜入調査になりそうだ。