(く~っ、陽翔の唇ってば、ムダに柔らかすぎるだろ!)
玄関のドアに背中を預け、ドキドキする胸を押さえながらその場に立ち尽くす。さっき俺から、陽翔の頬にいってらっしゃいのキスした。本当は唇にしたかったけど、朝から刺激的なのはどうかと思って気を遣い、一応自重したんだ。
そしたら陽翔ってば「そんなんじゃ足りない」って言って、俺をぎゅっと抱きすくめて、濃厚なキスをぶちかました。あまりに刺激的すぎて、感触が頭から離れない。
ふらついた足取りでリビングに移動。朝陽が窓越しに差し込み、陽翔のアパートの床を淡く染める。
さっきの陽翔の「じゃ、行ってくるな」という声とニヤリとした笑顔が、俺の心をぐちゃぐちゃにかき乱す。
「いって……らっしゃい」と呟いた俺の声、情けないくらいに震えてた。陽翔は気づかなかったみたいだけど、朝っぱらから濃厚なキスをされたせいで、俺の頭ん中が大爆発した。
陽翔の唇、なんでこんな柔らかいんだろ。熱がまだ残ってるみたいで、指で唇に触ったら燃えそうなくらいに火照ってる。この幸せ、俺なんかがもらっていいのかな。陽翔、いつか飽きがくるかもしれない?
スーツ姿の陽翔が曲がったネクタイを直す仕草、玄関を出る前のその一瞬が、頭に焼き付いてる。それだけじゃなく、昨日ベッドで抱きついたときの香水と陽翔の体臭が混ざった匂い。毎日嗅ぎたいなんて思う俺、頭がおかしいかな。
陽翔がドアを閉める前に振り返った笑顔、晴れそのものだった。俺の心が陽翔のその顔で、毎日真夏みたいに熱くなる。
こんなに幸せだけど、実際は怖い。5年前、卒業式の桜の木の下で俺は陽翔を待たせた。冷たく突き放したバカな俺。読めない手紙をしまい込んでいた俺の弱さが、今も胸をチクチク刺す。
親の離婚で誰も信じられなかったあの頃、陽翔だけは違ったのに。陽翔に嫌われたら俺、間違いなく終わりだ。さっきのキスも、一緒に過ごした夜も、いってらっしゃいと見送ることができた朝全部が、夢だったらどうしよう。
「悠斗、近いな」
さっきのキス直後に響いた一言が、頭でリピートされる。陽翔のSっ気たっぷりのニヤリは反則だ。俺、顔真っ赤で「うるさい」って返すのが精一杯だったけど、頭ん中じゃ「近いって、もっと近くてもいいよな? ずっとくっついてたい」って叫んでた。
陽翔の目、キレイすぎて直視できない。あの目に見つめられると俺の全部、陽翔に見透かされそうで怖い。
玄関のドア、陽翔が閉めた音がまだ耳に残ってる。朝陽が俺の足元まで伸びて、パジャマの裾をそっと照らした。お揃いのパジャマ、俺が選んだパジャマを見た陽翔が「へぇ、いい趣味してるじゃん」って笑いながら言ってくれた。着心地がよすぎて、陽翔の温もりみたい。陽翔の匂いが染みついてるこの布、俺の心まで染めること間違いなし。
コーヒーカップがキッチンに置いてある。陽翔が淹れてくれたやつ、俺の好みどストライク。陽翔、なんで俺の好きな苦さ知ってるんだよ。カップを持つ陽翔の指、細くてかっこいいって、さっき思ったこと、頭から離れない。陽翔の全部が好きすぎて死ぬ。
でも俺、陽翔にちゃんと好きって伝えられてるか? LINEの返事を「わかった」ばっか送ってる俺、陽翔にちゃんとした気持ちが届いてるのだろうか。告白のとき、雨音の中で「これからもずっと好き」って言ったけど、あれ、陽翔に足りてたかな? 俺のこの好き、陽翔の笑顔とかTシャツの匂いとか、全部全部、言葉にできないくらいにデカいのに。
複雑な心境に陥っていると、突然スマホが鳴る。陽翔からのLINEの着信音で、気持ちが一瞬で高揚した。
「昼、再会したカフェで昼飯食おうぜ」
シンプルな一文に、俺の心がバクバク跳ねる。返信、指が震えて「わかった」しか打てない。頭ん中では「カフェのソファに、格好よく座る陽翔がまた見れる」「あのコーヒーの香り、陽翔と一緒なら何倍も美味しいに違いない」って暴走してる。
陽翔の顔を想像しただけで、俺の心は晴れ渡ってしまうんだ。
桜の木の記憶が、朝陽に照らされて浮かぶ。高校の卒業式、雨の中で寂しそうに俺を待つ陽翔を見つめただけのバカな行動は、後悔しかない。今、陽翔とこうやって朝を迎えられるなんて、夢みたいだ。陽翔の傍で、俺の心はいつも晴れ。今日の昼、カフェで陽翔になんて言おう。頭ん中で、陽翔への好きが止まらない。