行きつけのカフェに到着したら、陽翔は仕事相手と親密そうに話し合いをしてる最中だった。
その様子を見渡せそうな窓際のソファに腰かけ、ぼんやりと彼を見つめたら陽翔が俺に気づき、ウインクなんてことをしやがった。
(気づいてくれたのは、すごく嬉しいけどさ――)
途端に顔が熱くなる。慌てて俯くだけで、なんのリアクションも返せない俺。本当は両腕を大きく振って、来たことをアピールしたいくらいなのに、恥ずかしさが先行してなにもできない俺を、陽翔は嫌いにならないかな。
「いらっしゃいませ。いつものコーヒーでよろしいでしょうか?」
いつの間にか傍らにマスターが立っていて、テーブルにお冷を置き、俺の顔色を窺った。30代前半と思しき顔立ちの整ったマスターが返事を促すようにほほ笑みを唇に湛えたが、俺はそこまで愛想はよろしくない。
「いつもので」
真顔で淡々と答えたというのに、俺の返事と自分の考えが合致したからか、瞳を細めながら嬉しそうに俺に笑いかけて、深くお辞儀をする。
「かしこまりました」
3年も通っていると、ムダな会話をせずに済むのがいい。マスターが丁寧に落としたコーヒーは絶品で、仕事に余裕があれば、毎日通いたいくらいに大好きだった。
恭しくお辞儀をして去って行ったマスターの気配が消えてから、駅前の本屋で購入したラノベを鞄から取り出し、栞を挟んでいるページを開く。本を読んでるフリをしつつ、陽翔の仕事ぶりをチェックした。
さっきのマスターと引けを取らない、もてなし顔――営業マンらしい笑顔を振りまき、客に媚びている様子を目の当たりにして、内心ケッと毒づく。仕事だから笑顔で接するのは、いた仕方ない。
でもあの笑顔を独り占めしたいって思うのは、俺のワガママなのかな。笑顔も苦しそうな顔も、色っぽい顔も全部、俺だけのものにしたいのに――。
「気持ちよすぎて、変になりそ……悠斗はどうなんだよ」
昨夜ベッドに膝をつき、腰を高く上げて枕に顔を埋め、感じてる顔を見せないようにしてる俺に、陽翔はわざわざ訊ねた。普段耳にしない掠れ気味の声で、陽翔が感じているのがわかる。
「そんなっ…ことをっ、聞くな!」
俺の感じるトコロがわかるのだろう。陽翔の大きいのが、なぞるように何度もそこを擦りつけるせいで、頭がおかしくなりそうだった。
「悠斗とこんなに相性がいいとは思わなかった。学生時代にわかっていたら、勉強なんてせずにコレばっかしてただろうな」
腰に触れている大きな両手が角度をつけるためか、グイッと持ちあげられた。
「ヒッ!」
「ヤバい。悠斗が感じる度に、俺のをグイグイ締めつける。蕩けそうなほど気持ちいい」
「陽翔ぉ……うっ、またイっちゃう」
手前もそうだけど、最奥をガンガン突かれると、どうにもガマンできない。
「イってもいいけど、ちゃんと言葉で愛を示してくれ」
「あっ、愛!?」
「俺は悠斗のこと好きだ。愛してる」
陽翔は甘さを感じさせる声で言って、俺の体を強く抱きしめた。触れたところから伝わる陽翔の熱が、愛おしくて切ない。傍にいられるこの瞬間を感じることができる行為に、イキたくない気持ちになってしまう。
ずっと、こうしていたい――陽翔の手で俺を捕まえていてほしい。
「陽翔がす、好きぃっ! 俺をこんなに乱す陽翔と一緒にイキたい…ンンっ」
「もっとなにか言って。悠斗の気持ちの全部が知りたい」
俺の言葉を引き出そうとしてるのに、陽翔が前後させる腰の動きが激し過ぎて、言葉にする余裕が全然ない!
「も、無理…は、るとが好きすぎて、あぁっ…なにを言っ、たらいいのか…って俺のを障るな!」
「触ってくれと言わんばかりに、ヌルヌルしてる。滑りが良くて、ずっと扱いてやりたい」
「あひぃっ、んっ…やっ、そこっ、だめぇ」
出したくないのに甲高い声がどんどん出てしまい、恥ずかしさに拍車をかける。
「だって悠斗が感じるとナカがいい具合に締まって、すげぇ気持ちいいんだ。お前だけなんだぞ、俺を感じさせるのは」
出し挿れされる腰の動きと俺自身を弄る陽翔の手から、卑猥な水音がして、快感に身をまかせたくなる。
「あ……っは…ぁ、ん…っも…だめっ!」
「目尻を下げて、だらしない顔してんな。エロ本でも読んでるのか?」
「ゲッ!」
耳元で囁く陽翔の声で、一気に現実に引き戻された。俺の傍にある顔がニヤニヤしていて、俺のことを見ていたのが一目瞭然で。
「なんでそんなに慌ててるんだ。やっぱりエロ本」
「読むわけないだろ、うるさいな!」
そう言ってさっきまで開いていたページを見せびらかし、無実を証明する。見せられたページに視線を落として確認すると、「なんで戦闘シーンで、あんな顔ができるのやら」といじわるそうな含み笑いをした。