悦子は、食卓の上に置いたお守りを見ながら溜息をついた。
石並村の朱美へ送る菓子類と一緒に同梱しようと思って、魔除けで有名な神社でお守りを入手したのだけど、寸前で思いとどまったのだった。朱美が気にしていないのに、押し付けてしまうような感じになるのは躊躇ってしまう。
しかし、最近どうにも、朱美がメールで報告してくる、庭の隅にあったという祠が気になって仕方が無い。
祖母が住んでいた時から、庭はほとんど手入れがされていなくて背の高い雑草で向こうが見えなかった。母親が、一度植木屋さんに来てもらったらと言っても、「別にいいよ。草木を手入れする趣味なんて無いしね」とあっさり断られたらしい。もちろん悦子も早々に手入れを諦めたので、祠など全く気付かなかった。
祖母は祠があったのを知っていたと思うが、お参りも何もせずに放置し続けていたのだろうか? 家の庭にあるなら、もしかしたら屋敷神? いや、中が空で茶碗だけなら、神様などはもう関係ないただの建造物という事になるのだろうか……。
そして、朱美から送られてきた押入れに置かれた茶碗と箸の画像。見た瞬間に、怖くなって慌てて電話をしたら、本人は大きなムカデの出没と逃がしてしまった事に興奮していて、あまり興味も無いようだった。
「変だから掃除する前に撮影して姉さんに見せようと思って。でもスマホの画像をノートパソコンに転送するのが面倒だったよー」
その時の会話では曖昧に誤魔化したけれど、ずっとあの家の掃除などをしていた悦子は、あの和室に押入れがある記憶が無かったのだ。他の和室は押入れや棚があるのに、一番奥の和室は6畳間なのに収納場所が何も無く使いづらそうだった。けれど、祖母がずっと寝起きしていたのもあの和室だった……。
茶碗と箸。さっき朱美から届いたメールには、祠から持って来た茶碗は大事に飾ってあるけど、箸は黴て黒くなっていたので捨てたらしい。捨ててはいけなかったんじゃないだろうか? 本当に何も気にしなさすぎだ、と妙な苛立ちを一瞬だけ覚える。
やっぱり、なるべく急いで朱美に会いに行こう。草むしりも手伝って祠もちゃんと見てみよう。どうしても気になるなら、自分が地元のお寺か神社に相談すればいい。
そう決めてから、朱美のメールに書かれていた「お肉が山ほど食べたくなって、スーパーで買ってきて一人焼肉をしたら胃を悪くしたよー」という文章を思い出して苦笑する。それぐらいの食欲と元気があるなら、きっと大丈夫だろう。
今度は、野菜と一緒になった焼肉セットでも送ってやろうか……と考えながら立ち上がった悦子は、突然妙な事に気が付いた。慌ててさほど大きくもない食卓の上を眺め回し、背後を探してから呆然と立ちすくんだ。
さっきまで食卓の上、手元に置いてあった筈のお守りが忽然と消えていた。