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14:悦子・4

 朱美が石並村の古い一軒家から姿を消して、一カ月が過ぎた。


 その日、悦子は家の整理に訪れていた。

 荷物の配達に訪れた郵便配達員が、玄関が開けっぱなしになっていたのを不審に思って駐在所に連絡し、朱美の失踪が判明した。悦子や両親は行方不明届を警察に出し、地元でも捜索が行われたけれど、結局朱美の行方はわからないままだ。

 誰にも言わなかったけれど、悦子は朱美は見つからないだろうと考えていた。それはもう、絶望的な諦めだった。朱美は何かに取り憑かれ、そのままどこかに去ってしまったのだ。


 祖母が夢の中で自分に言った「仕方ないね」という言葉を思い出す。


 自分は、結局妹に何もしてやれなかった、と悦子は後悔の日々を過ごしていた。本当に仕方なかったのだろうか。もっともっと強く言い聞かせていれば……。


 家の中は、驚くほど整頓されていた。

 まるで、朱美がいなくなった後、入念に掃き清めたようだ。もちろんそんな事は無いのだけど。

 朱美の私物や貴重品を全てまとめ、車に積み込む。

 炎天下、庭はまた草が生い茂っている。悦子は、でも庭にはまるべく目をやらなかったし、祠を見に行こうとも思わなかった。


 祠はあのまま朽ちて行けばいい。自分も、この家にもこれからはなるべく近づかないようにしよう。


 理由はわからない。でも、きっと、この家は、人が住んではいけない場所だったのだ。祖母は何とか無事だったけれど、朱美は連れていかれてしまった……。


 悦子は、台所のテーブルの上に置かれてたままになっていた、古びた葉書を手に取った。

 葉書には一言だけ、弱々しい筆跡で書かれていた。


「みんなくさってしまえばいい」


 <了>

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