いや……有名人って、そういうものなのだろうか? やっぱり、ファンがいてこそのアイドルだし。男性ファンでも、それが自分たちのギャラのためだったりするのかな。
まあ、そこまで深く考える必要はないか。と思いながら、
「とりあえず、座っててくださいよ」
と、恥ずかしさを感じつつも、今は聖修がお客様なのだからと、接客モードに切り替える俺。
「あ、え? ありがとう……」
そう言って、聖修はリビングのテーブル用の椅子にそっと腰を下ろした。
なぜか、その姿にホッとしてしまっていた。胸を撫で下ろすとは、こういうことなんだろう。
部屋に聖修を上げたはいいけど、正直、これからどうすればいいのか分からない。
昨日、初めて会ったばかりだし、相手は有名人。……まあ、俺からしたら「初めて」ってわけでもないけど。プライベートでは、初めてってことでいいのかもしれない。
こうして一般人の俺が、気軽に話しかけていいものかどうかすら分からないでいた。
そんな時、最初にこの空気を変えてくれたのは、聖修の方だった。
「ね、神楽さんって、いつもライブに来てくれてるよね?」
「は、はいー!?」
聖修からのその一言に、思わず目玉が飛び出しそうになる。
あの聖修が! 聖修がいるアイドルグループのライブに、俺が通っていることを知っていたなんて……。驚きと動揺で、心の中は大混乱だった。
「いつも、一番前にいるでしょ?」
確かに言われてみればそうだ。周りは女の子ばかりで、正直ちょっと居心地が悪かったけど、それでも一番前で、ライブが始まると大きな声で応援していたのは俺だった。……って、俺のこと、見てたの!?
またしても、恥ずかしさがこみ上げてくる。
「はぁ……まあ……ファンクラブにも入ってますしね……」
「だろうね。じゃなきゃ、一番前なんて取れないし。それだけ神楽さんが、私のファンってことなんだよね?」
「あ、はい……まあ……一応……」
会ってまだ二日なのに、こんな風に聖修と会話できるなんて、本当に夢みたいだと思っていた。けど、同時に、自分の恥ずかしい過去を暴露されてるような気もして……。
今の俺は、まさに「穴があったら入りたい」状態だった。
せっかく聖修が話しかけてくれているのに、顔を俯けたままの俺。
……いいのか、それで。
確か、小学生の頃に先生か親に、「人と話すときは目を見て話しなさい」って言われた記憶がある。だから、聖修の方をちゃんと見たいのに、こういう時に限って顔が上げられない。
俳優とか女優なら、演技でどうにかできるかもしれないけど、少なくとも俺には無理だ。でも、もったいない気もする。だって、目の前にあの憧れの聖修がいるんだ。しかも、生で見られるなんて、滅多にないチャンスなのに――。
なのに俺は、未だに顔を上げることができずにいる。