「君はいつから、私のアイドルグループのライブに来るようになったの?」
「それは……聖修さんがデビューした頃からです」
「私のライブは楽しい?」
「あ、はい! 本当に楽しいですよ!」
「ファンクラブには、いつから入ってたの?」
「それも……CDを買うようになってからですね。それでライブに行くようになって……ほら、CDに書いてあるじゃないですか、『ファンクラブ会員募集中』って」
「確かにね。それで、ファンクラブに入ったんだ」
「ファンクラブに入ると、ライブチケットが優先で取れるんですよ。先行発売もあるし、ファンクラブ会員は一番前の席が当たりやすいんです」
「なるほど……そういうことだったんだ」
「……って、知らなかったんですか?」
「そこは……私たちは知らないところなんだよね。全部スタッフさんがやってくれているから……」
「そっか……」と、俺は納得する。
「……で、他のメンバーには全然興味なかったの?」
「はい! 俺は聖修さんだけが好きですから」
「私のどんなところが好きで、ファンになったのかな?」
「あ、えーと……」
そういう質問をされると、なぜか少し引っかかってしまう。今までの聖修さんの質問には、すらすら答えられていたのに……。
……なんで聖修さんのことが好きになったのか、もう覚えていないのかもしれない。気づいた時には、もう好きで夢中になっていたから。好きになるって、そういうものだと思う。
「……んー、そこはもう、覚えてないんですよね。なんで聖修さんだけを好きになったのか。気づいたら、俺は聖修さんを追いかけていましたから」
「じゃあ、テレビ局に来たことはある?」
「いやー、さすがにテレビ局までは行ったことないですね。だって、俺……平日は普通に仕事してますから。平日は出かけられないんです」
「そうなんだ……神楽さんは仕事に熱心なんだね」
「あ、はい……。確かに俺は普通のサラリーマンですけど、今の仕事は好きなんです。それに、働かないと給料ももらえませんし……生活にも支障が出てしまうので。あと、一番の理由は、聖修さんのライブを楽しみにしてるから……それにグッズとかを買うためにも。仕事してないと買えませんから」
たぶん、今の俺は本当に楽しそうに聖修さんの質問に答えていたと思う。だって、自分でも素直に楽しいと感じていたから。
聖修さんの方も、そんな俺の答えを嬉しそうに聞いてくれているように見える。今の聖修さんの笑顔は、営業スマイルじゃなくて、本当に心からの笑顔に見える。営業スマイルって、どこかぎこちないものだけど、今の聖修さんはとても自然で、柔らかくて……そういうところも、嬉しいと感じるのかもしれない。
……でも、よく考えてみると、聖修さんの方から質問してきてくれてるんだから、つまらなそうにされる方が不自然かもな……と、また妙に納得してしまう俺がいる。
そして聖修さんは、俺の言葉にクスッと笑った。
「……って、そこ、笑うところですか!?」
「え? 違う違う、そういうんじゃなくて……。なんかね、私のために仕事を真面目に頑張ってる神楽さんを想像したら、余計に可愛く思えてきちゃって……」