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第27話

「……へ?」


 俺は、そんな聖修さんの言葉に再び裏声を上げてしまっていた。


「可愛いって……本当に、私からしてみたら君はお姫様のように可愛いってことなんだけど」


「……へ!?」


 ……そ、それは、もっと可愛い女の子に向かって言うセリフでしょ……そうそう、特にファンの女の子に。うん。俺なんか全然可愛くないし! しかも、俺は完全に男だし! 流石に“可愛い”って言われるのは……ちょっと違うんじゃないかなぁ? でも、俺ってある意味、乙女チックな考え方を持ってる男だし……いや、可愛いって言われるの、嬉しくないわけじゃないし……?


 と、“可愛い”と言われたことに妙に悩んでしまっている俺。


「って、お姫様って知ってる?」


「……まぁ」


 そんなふうに、可愛く問いかけてくる聖修。


 ……って、そんな質問しなくても普通は誰でも知ってるでしょー! あ、いや……流石に一部の男性は、そういう本とか読まないと知らないのかも? まぁ、一応、俺は知ってるけどね。


「何ていうのかな……君は意識してないのかもしれないけど、私からしてみたら、完全にお姫様って感じなんだよね。可愛くて、守ってあげたいって思うくらいにさ」


「……へ!?」


「君はまだ、私のことちゃんとわかってくれていないのかな? 本当に私は、君のことが好きで……好きで……ずっと舞台の上から君の姿を見ていたんだよ。君が観客席から私を見てくれていたようにね。たまに君が来られない日もあったみたいで、そういう時のライブは……なんていうか、歌詞を間違えたりもしてたかな」


「そういうこともあるんですね」


「……って、他人事みたいに言ってるけど……私はね、君がライブに来てくれないとダメになっちゃうっていうか……心配で、どうしたんだろう? って気になって仕方なくなるんだよ」


「あー……そうだったんですか!?」


 ……あ、え? どういうこと!? 俺がライブに行かなかっただけで、聖修さんがライブに集中できなくなるってこと!?


 正直、今の俺は、聖修さんの言葉すら頭に入ってこない。もう、もう……俺の脳内は完全にパニック。どうすればいいのか分からない、それが今の俺の現状だった。


 ――そう、昨日、聖修さんが隣に引っ越してきてから、俺の人生がガラッと変わった気がする。今まで本当に、何も起きない平凡な毎日を送っていたはずなのに……。


 聖修さんが隣に越してきただけで、毎日が喜怒哀楽に溢れて、平凡とは言えなくなってしまった。確かに、平凡な日々っていうのは退屈だったけど、かといって不幸ってわけでもなく、天国みたいに幸せなわけでもなく……そんな“普通”の生活だった。でも、聖修さんに会ってからは、まるで夢みたいに幸せな日々が始まった気がする。


 だって、俺みたいな一般人が、ずっと憧れていたアイドルと隣に住めるなんて――そんな奇跡、滅多に起きることじゃないんだから。

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